こんにちは、労務女子なおです。
健康保険は、会社員やその家族が病気やけがをしたときの医療や、働けない期間の生活を支える制度です。人事労務では、資格の取得・喪失や保険料、給付の手続きなどに関わります。
この記事では、健康保険法の目的や対象者、主な給付、保険料の仕組みを解説します。
健康保険法とは
健康保険法は、労働者やその被扶養者が、業務外の病気やけが、死亡、出産をした場合に保険給付を行い、生活の安定と福祉の向上を図ることを目的とする法律です。会社などに雇用されて働く人が加入する医療保険を定めた法律で、医療機関での治療にかかる給付だけでなく、病気で働けないときや出産で会社を休むときの給付も定めています。
健康保険法に基づく健康保険は、日本の公的医療保険制度の一つです。自営業者などが加入する国民健康保険や、75歳以上の人などが加入する後期高齢者医療制度とは、制度や運営主体が異なります。
健康保険を含む社会保険全体の構成については、こちらの記事で解説しています。
➡【社会保険】医療、介護、年金、労災、雇用?概要をわかりやすく解説
健康保険の対象者
被保険者
健康保険の被保険者は、適用事業所に使用され、法律上の加入要件を満たす人です。正社員だけでなく、勤務時間などの条件によってはパートやアルバイトも対象になります。
加入対象となるかどうかは、会社の呼び方や本人の希望だけでは決まりません。勤務先が適用事業所に当たるか、働き方が加入要件を満たすかを確認します。短時間労働者への適用範囲は制度改正が続いているため、実際の判定では最新の要件を確認しましょう。
被扶養者
被保険者に主として生計を維持されている家族などは、一定の要件を満たす場合に被扶養者として認定されます。親族関係や同居の有無、生計維持関係、収入などを確認して判断します。
被扶養者の認定は、単純に「年収が基準額未満か」だけで決まるものではありません。2026年4月からは、労働契約の内容から見込まれる年間収入を用いる取扱いも始まっています。詳しくは、日本年金機構の案内を確認してください。個別の認定では、加入している健康保険の保険者への確認も必要です。
健康保険の保険者
健康保険の運営主体を「保険者」といいます。主な保険者は、全国健康保険協会(協会けんぽ)と健康保険組合です。
協会けんぽは、主に健康保険組合を設立していない企業の従業員などが加入する保険者です。健康保険組合は、一定の要件を満たした企業や企業グループなどが設立し、加入者の健康保険を運営します。給付の法定内容は健康保険法で定められていますが、健康保険組合によっては、独自に法定給付へ上乗せする「付加給付」を設けている場合があります。保険料の負担割合や付加給付の内容は、組合によって異なります。
健康保険の主な給付
健康保険法では、病気やけが、出産、死亡などに対する給付が定められています。代表的なものを見てみましょう。
| 給付 | 主な内容 |
|---|---|
| 療養の給付 | 業務外の病気やけがについて、医療機関で必要な治療を受ける給付 |
| 高額療養費 | 1か月の医療費の自己負担が一定額を超えた場合の給付 |
| 傷病手当金 | 被保険者が病気やけがで働けず、給与を受けられない場合などの給付 |
| 出産育児一時金 | 被保険者または被扶養者が出産したときの給付 |
| 出産手当金 | 被保険者が出産のために仕事を休み、給与を受けられない場合などの給付 |
| 埋葬料・家族埋葬料 | 被保険者または被扶養者が亡くなったときの給付 |
健康保険の給付は、被保険者本人と被扶養者で内容が異なるものがあります。たとえば、療養の給付や高額療養費、出産育児一時金などは被扶養者も対象になりますが、傷病手当金と出産手当金は原則として被保険者本人に対する給付です。
また、正常な妊娠・出産は病気ではないため、通常の診療とは別の扱いになります。一方、出産育児一時金などの給付があり、妊娠・出産に伴う異常や疾病の治療には健康保険が適用されることがあります。
健康保険料の仕組み
健康保険料は、毎月の給与そのものではなく、給与を一定の幅で区分した「標準報酬月額」と、賞与をもとにした「標準賞与額」を基礎に計算されます。保険料率は加入する保険者や地域などによって異なります。
保険料は、原則として事業主と被保険者が折半して負担します。ただし、健康保険組合では、規約により事業主の負担割合を2分の1より大きくし、被保険者の負担を軽くできる場合があります(健康保険法第162条)。実際の負担割合は加入先の健康保険組合によって異なります。
たとえば、2026年度の協会けんぽ東京都支部の健康保険料率は9.85%です。賞与がなく、毎月の報酬が30万円程度(年収約360万円)なら、標準報酬月額30万円の等級が目安です(月々の報酬が29万円以上31万円未満の場合)。その場合の本人負担は下表のとおりです。実際には年収の合計ではなく、毎月の報酬や賞与をそれぞれ基礎に計算します。
| 標準報酬月額 | 健康保険料の本人負担(月額目安) |
|---|---|
| 20万円 | 9,850円 |
| 30万円 | 14,775円 |
| 40万円 | 19,700円 |
表は健康保険料のみの金額です厚生年金保険料や雇用保険料、税金は含まれていません。2026年4月分からは子ども・子育て支援金が別途加わり、40歳から64歳までは介護保険料も加算されます。標準報酬月額30万円の場合、本人負担は子ども・子育て支援金が月額345円、介護保険料が月額2,430円です。そのため、健康保険料と支援金を合わせた本人負担は、40歳未満なら月額約15,120円、40歳から64歳なら介護保険料も含めて月額約17,550円が目安です。65歳以上の介護保険料は、市区町村に別途納めます。料率や保険料額は年度・地域などで変わるため、実際の金額は加入先の保険者が公表する保険料額表で確認しましょう。協会けんぽの東京都支部の令和8年度保険料額表も確認できます。
人事労務では、資格取得・喪失の届出だけでなく、報酬の変更や賞与支給に伴う保険料の処理も重要です。
国民健康保険・労災保険との違い
健康保険法に基づく健康保険は、主に会社などに雇用されて働く人を対象とする「被用者保険」です。国民健康保険は、他の医療保険制度に加入していない住民などを対象とし、市町村や国民健康保険組合が運営します。加入する制度によって、保険料の決まり方や給付の内容が異なります。
健康保険と労災保険の使い分けにも注意が必要です。仕事中や通勤中の病気・けがは、原則として労災保険の対象となり、健康保険を使うことはできません。発生状況を確認したうえで、適切な制度につなぐことが大切です。
人事労務担当者が押さえたい実務
健康保険に関する人事労務の実務は、入社・退職時の資格取得・喪失、被扶養者の追加や削除、標準報酬月額や標準賞与額に関する届出、保険料の控除・納付など多岐にわたります。
特に、従業員から「家族を扶養に入れられるか」「休職中に給付を受けられるか」と相談されたときは、健康保険の加入要件と給付要件を分けて確認しましょう。傷病手当金などは、保険に加入しているだけで自動的に支給されるものではなく、個別の要件を満たしたうえで申請が必要です。
複数の会社で働く従業員については、労働時間の管理とは別に、健康保険・厚生年金保険の加入や届出を確認する必要があります。兼業・副業に関する社会保険の考え方は、こちらの記事で解説しています。
➡【兼業・副業】会社のルール・労働時間管理・社会保険を解説
おわりに
健康保険法は、医療機関での治療だけでなく、病気で働けないときや出産、死亡など、働く人とその家族の生活を支える給付を定めています。人事労務担当者は、誰が加入対象になるのか、どの保険者が運営しているのか、どのような場合に給付を受けられるのかを押さえたうえで、資格や保険料に関する届出を適切に行うことが大切です。個別の判断では、法令や加入先の保険者の最新情報も確認しましょう。
健康保険法をはじめ、社会保険や労働法を体系的に学ぶ方法を探している方は、資格・検定を学習に活用する方法もあります。社労士などの特徴や選び方は、こちらの記事で紹介しています。
➡【労務の資格・検定】社労士・衛生管理者などの特徴と選び方
【参考】
・健康保険法|e-Gov法令検索
・就職したとき(健康保険・厚生年金保険の資格取得)の手続き|日本年金機構
・健康保険給付について|協会けんぽ
・国民健康保険制度|厚生労働省