【障害者虐待防止法】5つの虐待・会社の義務・通報対応を解説

障害者虐待防止法 雇用・両立支援

こんにちは、労務女子なおです。

障害者虐待と聞くと、家庭や福祉施設で起きる問題をイメージする方も多いかもしれません。しかし、障害者虐待防止法では、障害のある従業員に対する職場での虐待も対象とされています。暴力や暴言だけでなく、賃金を適切に支払わないことや、周囲の従業員による虐待を放置することも、障害者虐待にあたる可能性があります。

この記事では、障害者虐待防止法の概要、職場で問題となる5つの虐待、会社に求められる対応についてわかりやすく解説します。

障害者虐待防止法とは

障害者虐待防止法は、障害者に対する虐待の防止、虐待を受けた障害者の保護、養護者に対する支援などを定めた法律です。正式名称を「障害者虐待の防止、障害者の養護者に対する支援等に関する法律」といい、2012年10月に施行されました。

法律では、虐待を行う立場によって、次の3つに分けています。

区分主な場面
養護者による障害者虐待家族など、日常的に障害者の生活を支える人による虐待
障害者福祉施設従事者等による障害者虐待障害者福祉施設や障害福祉サービス事業所などでの虐待
使用者による障害者虐待障害者を雇用する事業主や、職場で労務管理などを行う立場の人による虐待

人事労務担当者が特に理解しておきたいのは、「使用者による障害者虐待」です。なお、法律の対象となる障害者は、障害者手帳を持っている人に限られません。身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む)などがあり、障害と社会的な障壁によって継続的に日常生活または社会生活に相当な制限を受けている人が対象となります。

障害者基本法における障害者の定義や基本的な考え方については、以下の記事で詳しく解説しています。
【障害者基本法】目的や障害者の定義は?概要をわかりやすく解説

使用者による障害者虐待とは

使用者による障害者虐待とは、障害者を雇用する事業主や事業の経営担当者などが、雇用する障害者に対して行う虐待をいいます。ここでいう使用者は、会社の代表者だけを指すものではありません。工場長、店長、管理職など、事業主のために従業員に関する事項を扱う立場の人も含まれることがあります。

一方、同僚による行為が直ちに「使用者による虐待」にあたるとは限りません。ただし、会社が同僚による虐待を把握しながら放置した場合には、会社側の放棄・放置にあたる可能性があります。

障害者虐待にあたる5つの行為

障害者虐待防止法では、虐待を次の5つに分けています。

身体的虐待

身体的虐待とは、障害者の身体に外傷が生じる、または生じるおそれのある暴行を加えることや、正当な理由なく身体を拘束することです。たとえば、次のような行為が考えられます。

  • 殴る、蹴る、物を投げつける
  • 強く押す、つねる
  • 正当な理由なく部屋から出られないようにする
  • 無理に身体を押さえつける

指導のつもりであっても、暴力や不必要な身体拘束が許されるものではありません。

性的虐待

性的虐待とは、障害者にわいせつな行為をすること、または障害者にわいせつな行為をさせることです。本人が望まない身体への接触、性的な発言や行為の強要などが該当する可能性があります。職場のセクシュアルハラスメントと重なる場合もあるため、会社はハラスメント防止の仕組みとあわせて対応することが重要です。

心理的虐待

心理的虐待とは、著しい暴言や拒絶的な対応、不当な差別的言動などによって、障害者に心理的な苦痛を与えることです。たとえば、次のような行為が考えられます。

  • 障害を理由に人格を否定する言葉を浴びせる
  • 大声で繰り返し威圧する
  • 失敗を必要以上に責め続ける
  • 障害のある従業員だけを意図的に無視する

業務上必要な指導を行うこと自体は問題ではありませんが、指導の内容や方法が必要な範囲を超え、相手の尊厳を傷つけていないかを確認する必要があります。

放棄・放置(ネグレクト)

放棄・放置とは、必要な対応を行わず、障害者の養護を著しく怠ることです。職場では、ほかの従業員による身体的虐待、性的虐待、心理的虐待を把握しているにもかかわらず放置することなどが問題となります。本人から相談を受けた管理職や人事担当者が、「本人同士の問題だから」と取り合わないことも適切ではありません。事実関係を確認し、被害の拡大を防ぐ対応が必要です。

経済的虐待

経済的虐待とは、本人の同意なく財産を処分することや、不当に財産上の利益を得ることです。職場では、次のような行為が問題となります。

  • 賃金を支払わない
  • 必要な許可を得ず、最低賃金を下回る賃金しか支払わない
  • 本人の同意なく預金や金銭を管理・使用する
  • 本人に支払うべき金銭を不当に取り上げる

厚生労働省の令和6年度調査では、使用者による虐待が認められた障害者652人のうち、経済的虐待は584人で、虐待種別の85.0%を占めました。暴力や暴言だけでなく、適正な賃金の支払いも障害者虐待防止の重要なポイントです。

会社に求められる虐待防止措置

障害者を雇用する事業主には、虐待を防止するため、次のような措置を講じることが求められます。

  • 従業員に対する研修を実施する
  • 障害や障害者虐待に関する理解を深めるための啓発を行う
  • 障害のある従業員や家族からの苦情を適切に処理する体制を整える
  • 虐待防止のために必要な措置を講じる

障害者雇用に直接関わる担当者だけでなく、日常的に業務指示や評価を行う管理職にも、基本的な知識を共有しておくことが大切です。また、相談窓口を設けるだけでは十分とはいえません。障害の特性によっては、口頭で状況を説明することが難しい場合もあります。メール、相談フォーム、支援者や家族を交えた面談など、相談しやすい方法を用意しておくとよいでしょう。

障害者虐待を発見した場合の通報・届出

使用者による障害者虐待を受けたと思われる障害者を発見した人は、速やかに市区町村または都道府県へ通報しなければなりません。また、虐待を受けた本人も、市区町村または都道府県へ届け出ることができます。通報の対象となるのは、虐待が確定した場合だけではありません。「虐待を受けたと思われる」段階で対象となるため、社内調査の結論が出るまで必ず待つという考え方は適切ではありません。通報や届出を受けた情報は都道府県労働局へ伝えられ、必要に応じて、労働基準法、最低賃金法、障害者雇用促進法などに基づく調査や指導が行われます。

また、会社は、労働者が通報や届出をしたことを理由として、解雇その他の不利益な取扱いをしてはなりません。相談者や通報者の情報は必要な範囲で取り扱い、人事評価や配置で不利益を与えることがないよう注意が必要です。

虐待が疑われるときの社内対応

職場で障害者虐待が疑われる場合には、次のように対応します。

本人の安全を確保する

まずは被害を受けた本人の安全と心身の状態を確認します。必要に応じて、行為者との接触を避ける、医療機関の受診につなげるなどの対応を行います。

事実関係を確認する

本人、行為者、関係者から個別に話を聞き、メール、チャット、勤怠記録、給与記録などの資料を確認します。本人の説明方法に配慮し、必要に応じて支援者や家族の同席を検討します。ただし、障害に関する情報は機微性の高い個人情報であるため、本人の意向を確認しながら共有範囲を限定することが大切です。

行政への通報・相談を行う

虐待が疑われる場合には、市区町村や都道府県の窓口へ速やかに通報します。賃金不払いなどの労働関係法令違反が疑われる場合には、都道府県労働局や労働基準監督署などへの相談も検討します。

是正と再発防止を行う

確認した事実に応じて、被害の回復、未払い賃金の支払い、行為者への指導や懲戒、配置の見直しなどを行います。あわせて、管理職への研修、相談ルートの見直し、給与計算や労務管理の点検など、同じ問題を繰り返さないための対応も必要です。

人事が日常の中で気づくために

すべての管理職が法律上の5つの類型を暗記することは、あまり現実的ではありません。実務では、普段の労務管理の中で生じる違和感や一見軽微に見える問題を見過ごさないことが大切です。

  • 賃金・勤怠を曖昧にしない:雇用契約と実際の勤務・支払いが一致しているかを確認し、「障害者雇用だから特殊なのだろう」と現場任せにしないようにします。
  • 直属の上司だけに任せきらない:上司との関係自体に問題がある場合も考え、人事や相談窓口など、上司以外にも話せるルートを用意します。
  • 「障害の特性だから」と片づけない:本人の訴えを軽く扱わず、関係者への確認やメール、勤怠、給与記録なども踏まえて事実を確認します。
  • 虐待にあたるか迷っても対応を止めない:まず本人の安全を確認して話を聞き、虐待が疑われる場合には、社内だけで抱えず行政へ通報・相談します。

おわりに

障害者虐待防止法は、家庭や福祉施設だけでなく、障害のある人が働く職場にも関係する法律です。職場では、身体的・性的・心理的な虐待に加えて、周囲の虐待を放置することや、賃金を適切に支払わないことも問題となります。人事労務担当者は、相談があってから対応するだけでなく、管理職への教育、相談体制の整備、賃金や勤怠の点検などを通じて、虐待が起きにくく、早期に気づける職場づくりを進めることが大切です。

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【参考】
障害者虐待防止法に関する通知・関連資料等(厚生労働省)
障害者虐待防止法(e-Gov法令検索)
令和6年度 使用者による障害者虐待の状況等(厚生労働省)

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