こんにちは、労務女子なおです。
収入を増やすためだけでなく、スキルを磨いたり、新しい仕事に挑戦したりするために、兼業・副業を考える人もいます。会社にとっても、従業員が社外で得た経験を仕事に活かせる一方、働きすぎや情報漏えいなどへの対応が必要になります。
この記事では、兼業・副業の意味、会社が制限できる場合、労働時間管理、社会保険や社内ルールのポイントについて解説します。
兼業・副業とは
兼業・副業とは、複数の仕事を掛け持ちすることです。他社でのパート・アルバイトのほか、個人で事業を営むことや、業務委託で仕事を受けることなど、さまざまな形があります。一般に「副業」は本業に加えて別の仕事をすること、「兼業」は複数の仕事を並行して行うことを指しますが、法律上、両者を一律に区別する定義があるわけではありません。労務管理では、呼び方よりも、どのような契約で、どのくらい働くのかを確認することが大切です。
会社による禁止・制限
勤務時間外をどのように使うかは、基本的には従業員の自由です。厚生労働省のガイドラインでも、原則として兼業・副業を認める方向で検討することが適当とされています。本業への支障などの合理的な理由がないまま、一律に禁止することは適切ではありません。ただし、すべての兼業・副業を無条件に認めなければならないということではありません。
会社が禁止・制限できる場合としては、次のようなものが挙げられます。
| 主な理由 | 具体例 |
|---|---|
| 本業への支障 | 深夜の副業による疲労で、本業の勤務に支障が出る |
| 企業秘密の漏えい | 業務で知った顧客情報や技術情報を副業先で使う |
| 会社の信用への影響 | 会社の名誉・信用を損なう行為や、信頼関係を破壊する行為がある |
| 競業による利益の侵害 | 競合する事業で、自社の顧客を勧誘する |
「他社で働くから」「同じ業界だから」という理由だけで判断せず、業務内容や本人の立場、会社への具体的な影響を確認します。制限が必要な場合も、勤務時間や仕事内容の調整で対応できないか検討するとよいでしょう。
労働時間と健康管理
雇用される場合の労働時間
自社と副業先の両方で雇用され、労働基準法の労働時間規制が適用される場合、労働時間は原則として通算します。それぞれの会社で法定労働時間内に収まっていても、合計すると時間外労働になることがあります。たとえば、自社で1日8時間働いた後、別の会社で2時間働けば、原則として通算した2時間は法定時間外労働になります。どちらの会社に割増賃金の支払い義務が生じるかは、労働契約を結んだ順序や、所定労働時間・所定外労働時間などによって判断します。
副業先の労働時間は、本人からの申告などにより把握します。通算に伴う割増賃金や時間外労働の上限規制の扱いは複雑なため、厚生労働省の解説資料を確認し、必要に応じて社会保険労務士などに相談するとよいでしょう。ここは実務的にも難しい点になります。
また、厚生労働省は、労働時間の通算・管理の方法の一つとして「管理モデル」も示しています。ただし、副業先との合意や労働時間の上限設定、割増賃金の取扱いの調整などが必要で、導入すれば簡単に管理できるわけではありません。自社と副業先の働き方や賃金の仕組みに合うか、慎重に検討する必要があります。詳しくは、厚生労働省のページ(副業・兼業|厚生労働省)の「管理モデル解説資料」を参考にしてください。
業務委託・個人事業の場合
フリーランスや個人事業主として、労働基準法上の労働者に当たらない形で働く場合、その時間は労働基準法上の通算の対象にはなりません。ただし、業務委託という契約名でも、実態として指揮命令を受けて働くなど、労働者に当たる場合には、労働時間規制が適用されることがあります。契約の名称だけで判断しないことが重要です。
働きすぎと健康への配慮
通算の対象にならない副業でも、長時間働けば疲労や睡眠不足につながります。兼業・副業をしている場合も、会社は従業員に対する安全配慮義務を負います。全体の業務量や働く時間が過重であること、健康状態に問題があることを把握した場合には、業務量の調整など、必要な対応を検討することが大切です。
本人にも働く時間や体調を管理する意識を持ってもらい、不安があるときに相談できるようにしておきましょう。開始時だけでなく、本業の残業が増えたときや副業の内容が変わったときにも、働き方を見直せるようにしておくとよいでしょう。
社会保険の扱い
健康保険・厚生年金保険の加入要件は、原則として勤務先ごとに判断します。労働時間の通算とは異なり、両社の勤務時間を足して加入要件を判断するわけではありません。本業と副業先の両方で加入要件を満たす場合は、本人による「二以上事業所勤務届」などの手続きが必要になります。両社の報酬を合算して標準報酬月額を決め、保険料を各社の報酬に応じて按分します。
他社で雇用される副業では、労働時間だけでなく、社会保険の加入や届出の要否も確認しておきましょう。具体的な手続きや保険料の扱いは、日本年金機構のページ(複数の事業所に雇用されるようになったときの手続き|日本年金機構)を参考にしてください。
就業規則と届出
ルールと判断基準
就業規則などには、兼業・副業に関する基本方針、届出などの手続き、禁止・制限する場合の理由を定めます。届出制や許可制を設ける場合も、判断基準を明確にし、担当者や上司によって扱いが変わらないようにすることが重要です。本業の勤務時間中に副業の作業を行わないことや、会社の情報・設備を無断で利用しないことなど、本業に支障を生じさせないためのルールも整理し、従業員に理解してもらうことが大切です。
厚生労働省のモデル就業規則には、勤務時間外の兼業・副業を認めたうえで、本業への支障などがある場合に禁止・制限できる規定例が示されています。自社の業務や実態に合わせて検討する際の参考になります。
届出で確認する内容
本人からは、副業先や業務内容、雇用・業務委託などの契約形態、働く日や時間の見込みを確認します。雇用される場合には、契約を結んだ日や残業の見込みなど、労働時間の通算に必要な情報も確認します。あわせて、開始後の労働時間の報告方法や、仕事内容・勤務時間が変わった場合の手続きを決めておくと、継続的に状況を把握しやすくなります。本人が相談・申告しやすいよう、情報を確認する目的も説明しておきましょう。
無断で兼業・副業をしていた場合
必要な届出や許可を得ずに兼業・副業をしていた場合は、まず本人に事情を確認します。手続きへの理解不足なのか、意図的に隠していたのか、本業への支障や情報漏えいがあるのかなどを整理する必要があります。無断で行っていたという理由だけで、直ちに重い懲戒処分が認められるわけではありません。就業規則の定めや制限の合理性、違反の内容・程度などを踏まえ、慎重に対応します。
懲戒処分の基本的な考え方や進め方については、以下の記事でも解説しています。
➡【懲戒処分とは】種類・判断基準・進め方と注意点を解説
おわりに
兼業・副業は、収入やキャリアの選択肢を広げる働き方の一つです。人事労務担当者は、本業への影響や働く時間、健康状態を確認し、従業員と会社の双方が安心できるルールを整えることが大切です。
人事労務や労働法を体系的に学びたい方は、書籍で一度全体像をつかんでおくのもおすすめです。
➡【人事労務おすすめ本】労働法の基本を学ぶには?おすすめ厳選8冊を紹介
【参考】
・副業・兼業|厚生労働省
・副業・兼業の促進に関するガイドライン わかりやすい解説|厚生労働省
・複数の事業所に雇用されるようになったときの手続き|日本年金機構