こんにちは、IT企業で人事をしている労務女子なおです。
本記事では『管理監督者』に関して、3分程度で概観できるよう解説します。
管理監督者とは
企業に勤める会社員の働き方を規定する勤務形態には、いくつかの種類があります。
その中でも『管理監督者』は、労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者をいい、その働き方は労働基準法で定められた労働時間、休憩、休日の制限を受けません。
労働基準法第41条2号には、「事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者」と表現されています。
管理監督者は、役職名などの名目だけではなく、その職務内容、責任と権限、勤務態様、処遇等の実態によって判断されます。
なお、管理監督者は、厳密には勤務形態とは異なる概念となりますが、企業の人事担当としては、いくつかの種類が存在する勤務形態と区別し、1つの働き方の種類として認識することが有用です。
管理監督者含めて、勤務形態は大きく以下の7つに分類されます。
それぞれの概要については以下で紹介しています。
➡ 【勤務形態】働き方の種類と特徴は?概要をわかりやすく解説
- 通常の労働時間制(固定時間制)
- 変形労働時間制
- フレックスタイム制
- 事業場外のみなし労働時間制
- 裁量労働制
- 高度プロフェッショナル制度
- 管理監督者
判断基準
管理監督者であるかどうかについては、役職名などの名目だけではなく、以下の4つの要素の実態によって判断されます。
- 職務内容
- 責任と権限
- 勤務態様
- 処遇
職務内容
労働条件の決定や労務管理について、経営者と一体的な立場にあり、また、労働基準法で定められた労働時間、休憩、休日の制限を受けずに活動せざるを得ないほどの重要な「職務内容」を担っていることが必要となります。
具体的には、経営に関わる意思決定をしたり、経営会議に参加・発言できる立場であったり、部門組織を統括したりしている場合は、上記の要件に該当し得ると言えますが、例えば、飲食店の店舗の「店長」としての肩書きはありつつも、実態として、他の店舗スタッフと同様の業務をしているような場合には、この要件に該当しているとは言えません。
責任と権限
労働条件の決定や労務管理について、経営者と一体的な立場にあり、経営者から重要な「責任と権限」を委ねられていることが必要となります。
具体的には、採用に関する権限、部下の人事考課や解雇に関する権限、時間外労働を命じる権限を有している場合には、上記の要件に該当し得ると言えますが、例えば、「課長」「マネジャー」「リーダー」といった役職がありつつも、上記の権限が少ない場合には、この要件に該当しているとは言えません。
勤務態様
時間帯を選ばずに経営上の判断や対応が要請され、労務管理においても一般労働者と異なる立場にあり、労働時間について厳格な管理をされず、自らの働き方に関しての裁量があることが必要となります。
具体的には、一般労働者の始業・終業時間に拘束されることがなく、自らの裁量で労働時間をコントロールできる場合には、上記の要件に該当し得ると言えますが、例えば、遅刻や早退によって、減給の制裁や人事考課でマイナスの評価になる等の不利益な取り扱いがされたり、スタッフの不足等の事情により労働時間の裁量がほとんどなかったり、マニュアル通りの業務への従事が求められており、一般労働者と同様の勤務態様になったりしている場合には、この要件に該当しているとは言えません。
処遇
基本給、賞与、その他の手当等の待遇に関して、一般労働者と比較して相応の待遇がなされていることが必要となります。
具体的には、基本給、賞与、手当等の総額が、一般労働者よりも高額な場合には、上記の要件に該当し得ると言えますが、例えば、1年間に支払われた賃金の総額が、特別な事情がないにもかかわらず、当該企業の一般労働者と同程度以下であった場合や、長時間勤務により時間単位に換算した賃金額が一般労働者を下回るような場合は、この要件に該当しているとは言えません。
以上の通り、管理監督者性の判断基準には複数の要素の実態が重要となります。
裁判例においても、日本マクドナルド事件(東京地方裁判所平成20年1月28日判決)が有名です。
この裁判では、マクドナルドの店長が管理監督者に該当するかが主な争点となり、具体的な事実から、管理監督者性を否定し、会社に対して、時間外労働や休日労働に対する割増賃金の支払いを命じました。
その他にも管理監督者性を争う裁判例は多数存在し、こういった背景から、管理監督者性の問題については、「名ばかり管理職」の呼称で、世の中からも社会問題として認知されていますし、労働基準監督署からも慎重な確認がなされることがあることは、企業の人事担当は認識しておく必要があると言えます。
管理監督者の労働時間等
時間外労働・休日労働
管理監督者は、労働基準法で定められた労働時間、休憩、休日に関する規定が適用されません。
つまり、管理監督者については、時間外労働手当(2割5分増以上の割増賃金)、休日労働に対する手当(3割5分増以上の割増賃金)の支給は不要です。
また、36協定や休憩の付与も対象外となります。
深夜業
一方、管理監督者の場合も、22時から午前5時までの深夜に労働した場合には、2割5分増以上の割増賃金の支給が必要となります。
時間外労働、休日労働と混合し、割増賃金は一切不要と勘違いされるケースもありますので、そうではないことには注意が必要です。
年次有給休暇
管理監督者の場合も、労働基準法における年次有給休暇の規定は適用となります。
よって、一般の労働者と同様に、年次有給休暇の付与、年5日の時季指定義務も対象となります。
労働時間管理
労働基準法上の労働時間、休憩、休日に関する規定が適用されないからといって、管理監督者の労働時間や健康への配慮を怠ってよいということにはなりません。
管理監督者も、労働契約法5条における「安全配慮義務」、健康管理に関する義務等を定めた労働安全衛生法の対象となります。
特に、2019年4月に施行された働き方改革関連法においては、労働安全衛生法が改正され、管理監督者についても、労働時間の把握義務の対象となりました。 それ以前については、管理監督者とみなし労働時間制が適用される労働者は対象外とされていましたが、上記の改正により、労働時間の把握義務の対象外となるのは、高度プロフェッショナル制度の適用者のみとなりました(高度プロフェッショナル制度の適用者については、労働基準法の健康管理時間による管理が定められています)。
なお、高度プロフェッショナル制度の詳細は以下のページで解説しています。
➡ 【高度プロフェッショナル制度】導入企業少ない?概要をわかりやすく解説
おわりに
この記事では『管理監督者』について解説してきました。
管理監督者は、労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者をいい、労働基準法で定められた労働時間、休憩、休日の制限を受けない働き方です。企業の人事労務担当者としては、管理監督者について、管理監督者に該当するかの判断基準を正しく理解する必要があります。
また、管理監督者に該当する場合も、その労働時間等に関する取り扱いに関しては、何も留意が必要ないといった誤った認識をせず、適切に運用することが重要となります。
【参考】
e-Gov 労働基準法
厚生労働省 管理監督者の範囲の適正化