こんにちは、IT企業で人事をしている労務女子なおです。
本記事では『裁量労働制』に関して、3分程度で概観できるよう解説します。
裁量労働制とは
企業に勤める会社員の働き方を規定する勤務形態には、いくつかの種類があります。
その中でも『裁量労働制』は、みなし労働時間制の1つで、業務遂行の手段や時間配分などに関して会社が具体的な指示をしない業務について、あらかじめ定めて労働時間を働いたこととみなす勤務形態です。
デザイナーやシステムエンジニアなど19の業務を対象とした専門業務型裁量労働制と、事業運営の企画、立案、調査、分析を行う業務を対象とした企画業務型裁量労働制があります。
同制度は、労働基準法第38条の3(専門業務型)、第38条の4(企画業務型)に定められています。
業務遂行の手段や時間配分など労働者の裁量にゆだねた柔軟性の高い働き方ですが、一方で、世間では「定額働かせ放題」などと話題になるように、その運用や従業員の健康管理には十分な留意が必要です。
また、企業の人事担当としては、本質的ではないものの、意外と気にしなければならないポイントとして、同制度の導入手続きや継続のハードルが高いことがあげられます。
裁量労働制含めて、勤務形態は大きく以下の7つに分類されます。
それぞれの概要については以下で紹介しています。
➡ 【勤務形態】働き方の種類と特徴は?概要をわかりやすく解説
- 通常の労働時間制(固定時間制)
- 変形労働時間制
- フレックスタイム制
- 事業場外のみなし労働時間制
- 裁量労働制
- 高度プロフェッショナル制度
- 管理監督者
メリット
裁量労働制のメリットは、主に以下のポイントになります。
【会社視点】
- 従業員の自律的な働き方を促すことができる
- 柔軟な働き方を実現することで従業員のエンゲージメント向上につながる
- 人件費管理がしやすい
- 給与支給のオペレーションが容易になる
【従業員視点】
- 自分の裁量・ペースで働くことができる
- 拘束時間を短縮することができる
【会社視点のメリット①】従業員の自律的な働き方を促すことができる
裁量労働制は、対象者に対して、成果達成までの手段や時間配分等の裁量をゆだねることになるため、対象者一人ひとりが生産性を上げるために創意工夫することが期待できます。
【会社視点のメリット②】柔軟な働き方を実現することで従業員のエンゲージメント向上につながる
裁量労働制は、対象者個人のペースで働くことを可能とするため、プライベートの時間との両立も実現しやすくなります。
また、成果達成までの細かなプロセスや作業について、事細かに上司からの指示を受けたり、報告したりしなければならない機会が減ることで、そういった点でのストレスが減ることも期待できます。
【会社視点のメリット③】人件費管理がし易い
裁量労働制の対象者は、休日、深夜の割増賃金は支給が必要であるものの、それ以外の時間外労働のコストに関しては、あらかじめ定めたみなし労働時間に応じて決まってきます。
みなし労働時間が法定労働時間と同じような制度設計とした場合は、休日、深夜の割増賃金を除き、時間外労働のコストは発生しません。
その意味で、一定程度の人件費が固定的になることで、人件費の総額を予測、算出しやすくなります。
【会社視点のメリット④】給与支給のオペレーションが容易になる
裁量労働制の対象者は、時間外労働のコストに関しては、上述の通り、あらかじめ定めたみなし労働時間に応じてある程度決まってきます。 そのため、休日、深夜の割増賃金を除き、時間外労働のコストを計算する必要がなくなります。
【従業員視点のメリット①】自分の裁量・ペースで働くことができる
裁量労働制の対象者は、始業・終業時刻を労働者が自由に決めることができ、プライベートの時間との両立も実現しやすくなります。 また、業務遂行の手段や時間配分など具体的な指示を受けることを想定しない業務を対象としていますので、自分のスタイルやペースで仕事を進めることができます。
【従業員視点のメリット②】拘束時間を短縮することができる
裁量労働制は、業務遂行の手段や時間配分など幅広い裁量が対象者にゆだねられていますので、生産性を高めたり、創意工夫をしたりすることで、自分の仕事を短時間で終わらすことが出来れば、その分の拘束時間を短縮することが可能となります。
デメリット
一方、裁量労働制のデメリットは、主に以下のポイントになります。
【会社視点】
- 導入手続きのハードルが高い
- 制度継続の負担が大きい
- 労働時間管理が煩雑になりやすい
【従業員視点】
- 長時間労働になりやすい(自己管理能力が求められる)
- 時間に応じた時間外労働手当が出ない
【会社視点のデメリット①】導入手続きのハードルが高い
裁量労働制の導入については、後述する手続きがあり、高度プロフェッショナル制度と合わせて、他の勤務形態よりもそのハードルが高いと言えます。
専門業務型であれば、労使協定の締結の上で、労基署へ届け出が必要となります。
企画業務型であれば、労使委員会を設置し、必要な項目について決議の上、労基署へ届け出が必要となります。
企画業務型の場合は、対象者の個別の同意が必須になる点も注意が必要です。
【会社視点のデメリット②】制度継続の負担が大きい
労使協定や労使委員会の決議の更新が定期的に必要となります。
加えて、企画業務型については、導入後においても、決議が行われた日から6カ月以内毎に1回、労基署への定期報告が必要です。
また、労基署による臨検の際には、長時間労働になりやすい状況が顕在化していないかを詳細に確認される場面があることは、同制度を導入している人事担当ならご存じの方も多いかと思います。 昨今では、長時間労働への世間の関心の高まりや同制度の法改正の議論を巡り、臨検とは異なる調査が実施されていることも実態で、こうした対応を求められる可能性があることも留意が必要です。
【会社視点のデメリット③】労働時間管理が煩雑になりやすい
裁量労働制であっても、割増賃金の支給が発生する場合もありますし、労働安全衛生法の観点からも労働時間の把握は必要となります。
裁量労働制は、始業・終業時刻を労働者が自由に決めることができるため、労働時間の把握の運用ルールや勤怠管理システムをはじめ、適切な環境を整備する必要があります。
【従業員視点のデメリット①】長時間労働になりやすい(自己管理能力が求められる)
拘束時間を短縮できるケースと裏返しになりますが、業務が立て込んだり、効率よく業務を進めることができなかったりする場合には、長時間労働につながってしまう可能性があります。 心身ともに健康を保つためにも、恒常的に長時間労働とならないよう注意が必要です。
【従業員視点のデメリット②】時間に応じた時間外労働手当が出ない
裁量労働制の対象者は、休日、深夜の割増賃金は支給対象になるものの、それ以外の時間外労働に関しては、あらかじめ定めたみなし労働時間に応じて決まってきます。
みなし労働時間が法定労働時間と同じような制度の場合は、休日、深夜の割増賃金を除き、時間外労働手当は発生しません。 極端な例ですが、毎日定時で働いているAさんも、毎日平日朝5時から22時まで働いているBさんも、いずれの場合でも時間外労働手当の支給はありません。
企業の人事担当としては、こうしたメリットとデメリットを理解した上で、導入有無の検討、および、導入する場合には、適切に運用方法を整備することが重要です。
対象業務
裁量労働制は、以下の2つの種類があります。
- 専門業務型
- 企画業務型
専門業務型は、1987年(昭和62年)の法改正によって創設され、1993年(平成5年)には、従来通達で例示されていた対象業務を具体的に労働省令で定める規定整備が行われました。
その後、2003年(平成15年)には、労使協定の決議事項に健康・福祉確保措置、苦情処理措置を追加する改正が行われ、今に至ります。
一方、企画業務型は、専門業務型の創設から遅れること11年後の1998年(平成10年)の法改正によって導入されました。
その後、2003年(平成15年)には、労使委員会の決議など、導入・運用の要件・手続きが一部緩和され、今に至ります。
それぞれ対象となる業務が異なり、その内容は以下の通りです。
なお、専門業務型の13.M&Aアドバイザーの業務は2024年(令和6年)から追加となります。
導入手続き
裁量労働制の導入手続きは、専門業務型と企画業務型で異なります。
専門業務型の場合、労使協定を締結の上、労基署へ届け出が必要となります。
なお、労使委員会を設置した場合は、労使委員会の決議を労使協定に代えることが可能で、決議内容を労基署へ届け出る必要はありません。
また、2024年4月1日以降は、本人同意の取得、同意の撤回の手続きを定める必要が生じます。
一方、企画業務型の場合は、労使委員会を設置し、委員の5分の4以上で必要な項目について決議し、労基署へ届け出が必要となります(労使協定は不要)。
また、導入後においても、決議の有効期間の始期から初回6カ月以内に1回、その後は1年以内毎に1回、労基署への定期報告が必要です(2024年4月1日以降は、決議の有効期間の始期から6カ月以内に1回、その後1年以内毎に1回)。
加えて、企画業務型は、従来から対象者の個別同意の取得が必須でした。
更に、2024年4月1日以降は、労使委員会において賃金・評価制度の説明が必要になります。
以上のことからも、企画業務型の導入は、専門業務型と比較してより導入ハードルが高いと言えます。
裁量労働制における時間外労働
時間外労働
裁量労働制の対象者は、みなし労働時間が法定労働時間を超える場合には、その分が時間外労働となりますので、その分については2割5分増以上の割増賃金の支給が必要となります。
なお、裁量労働制における休憩時間についても、みなし労働時間が6時間を超え場合は45分以上、8時間を超える場合は1時間以上の休憩を与えなければなりません。
休日労働
裁量労働制の対象者についても、36協定を締結した上で、法定休日に労働した場合には、3割5分増以上の割増賃金の支給が必要となります。
深夜業
裁量労働制の対象者についても、22時から午前5時までの深夜に労働した場合には、2割5分増以上の割増賃金の支給が必要となります。
以上の取り扱いに関して、1週間の例のイメージを図示化すると以下の通りです。
おわりに
この記事では『裁量労働制』について解説してきました。
裁量労働制は、業務遂行の手段や時間配分など労働者の裁量にゆだねた柔軟性の高い働き方です。
専門業務型、企画業務型それぞれの裁量労働制が導入されて以降、業界を問わず、幅広い企業で一定程度の導入が進みましたが、一方で、導入手続きのハードルが高いことを理由に導入を見送る企業や、長時間労働になりやすいリスクや世間動向の本制度への批判的な関心を懸念し、導入後に廃止とする企業もいるのが現状のようです。
企業の人事労務担当者としては、こうした複数の要素を十分に留意の上、導入有無を含めて、その活用を検討し、導入する場合には、適切に運用することが重要です。
【参考】
e-Gov 労働基準法
厚生労働省 労働時間・休日
厚生労働省 裁量労働制の概要
厚生労働省 これからの労働時間制度に関する検討会
厚生労働省 裁量労働制実態調査に関する専門家検討会