【高度プロフェッショナル制度】導入企業少ない?概要をわかりやすく解説

勤務・働き方

こんにちは、IT企業で人事をしている労務女子なおです。
本記事では『高度プロフェッショナル制度』に関して、3分程度で概観できるよう解説します。

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高度プロフェッショナル制度とは

企業に勤める会社員の働き方を規定する勤務形態には、いくつかの種類があります。
その中でも『高度プロフェッショナル制度』は、一定の年収要件(年収1,075万円以上)を満たし、かつ、高度な専門性を持った労働者を対象に、原則、労働基準法に定められた労働時間、休憩、休日および深夜割増賃金に関する規定の適用を受けない勤務形態です。

同制度は、2019年4月に施行された比較的新しい制度で、労働基準法第41条の2に定められています。

「金融商品の開発」、「ファンドマネージャー、トレーダー、ディーラー」、「証券アナリスト」、「コンサルタント」、「新たな技術、商品又は役務の研究開発」を行う労働者を対象とし、高度な専門性を有する限定的な労働者のための柔軟な働き方です。
日本版ホワイトカラーエグゼンプション、略称として「高プロ」等と呼ばれることがあります。

制度導入から約4年経過した2023年3月末時点で、決議届が受理されているのは、26事業場(24社)対象労働者は823名と発表されています。具体的な内訳は、「金融商品の開発」が0事業所、「ファンドマネージャー、トレーダー、ディーラー」が5事業場(67人)、「証券アナリスト」が3事業場(27人)、「コンサルタント」が18事業場(724人)、「新たな技術、商品又は役務の研究開発」が3事業場(3人)となっています。
導入実績は緩やかに増加しているものの、他の勤務形態を含めた全体から見れば、相当に限定的な制度であるのが実情です。

高度プロフェッショナル制度含めて、勤務形態は大きく以下の7つに分類されます。
それぞれの概要については以下で紹介しています。
 ➡ 【勤務形態】働き方の種類と特徴は?概要をわかりやすく解説

  • 通常の労働時間制(固定時間制)
  • 変形労働時間制
  • フレックスタイム制
  • 事業場外のみなし労働時間制
  • 裁量労働制
  • 高度プロフェッショナル制度
  • 管理監督者
勤務形態一覧(高度プロフェッショナル制度)

メリット

高度プロフェッショナル制度のメリットは、主に以下のポイントになります。

【会社視点】

  • より成果重視の働き方を促すことができる
  • 柔軟な働き方を実現することで従業員のエンゲージメント向上につながる

【従業員視点】

  • 自分の裁量・ペースで働くことができる
  • 拘束時間を短縮することができる

【会社視点のメリット①】より成果重視の働き方を促すことができる
高度プロフェッショナル制度は、対象者に対して、労働時間によって処遇が決まる要素がないため、より成果を重視することとなり、対象者一人ひとりが生産性を上げるために創意工夫することが期待できます。

【会社視点のメリット②】柔軟な働き方を実現することで従業員のエンゲージメント向上につながる
高度プロフェッショナル制度は、対象者個人のペースで働くことを可能とするため、プライベートの時間との両立も実現しやすくなります。
また、しっかりと成果さえ出していれば良いため、成果達成までのプロセスにおけるストレスが減ることも期待できます。

【従業員視点のメリット①】自分の裁量・ペースで働くことができる
高度プロフェッショナル制度の対象者は、始業・終業時刻を労働者が自由に決めることができ、プライベートの時間との両立も実現しやすくなります。
また、しっかりと成果さえ出していれば良く、自分のスタイルやペースで仕事を進めることができます。

【従業員視点のメリット②】労働時間を短縮することができる
高度プロフェッショナル制度は、生産性を高めたり、創意工夫をしたりすることで、短時間で成果を出すことが出来れば、その分の労働時間を短縮することが可能となります。

デメリット

一方、高度プロフェッショナル制度のデメリットは、主に以下のポイントになります。

【会社視点】

  • 導入手続きのハードルが高い
  • 制度継続の負担が大きい
  • 労働時間・休日管理が煩雑になりやすい
  • 処遇に関するルール・運用整備の必要性

【従業員視点】

  • 長時間労働になりやすい(自己管理能力が求められる)
  • 時間外労働、休日、深夜の割増賃金が出ない

【会社視点のデメリット①】導入手続きのハードルが高い
高度プロフェッショナル制度の導入については、後述する手続きがあり、これまで導入のハードルが高いとされていた企画業務型裁量労働制よりも、更に定める必要となる事項があります。
企画業務型裁量労働制と同様に、労使委員会を設置し、必要な項目について決議の上、労基署へ届け出が必要となりますが、その内容にはいくつか違いがあります。
また、高度プロフェッショナル制度は、対象者の個別の同意が必須になります。

【会社視点のデメリット②】制度継続の負担が大きい
労使委員会の決議の更新が定期的に必要となります。
加えて、導入後においても、決議が行われた日から6カ月以内毎に1回、労基署への定期報告が必要です。
また、労基署による臨検の際には、裁量労働制と同様、もしくはそれ以上に、長時間労働になりやすい状況が顕在化していないかを詳細に確認される場面があることが想定されます。

導入事例が少ない分、国としても新制度の実態を把握するために、導入実績や運用状況を詳細に確認したいと思われますので、他の勤務形態と異なり、臨検とは異なる追加の調査が実施されることも予測されます。

【会社視点のデメリット③】労働時間・休日管理が煩雑になりやすい
高度プロフェッショナル制度は、後述する健康管理時間という考え方にのっとり、その時間を客観的な方法で把握することが義務付けられています。
また、年間104日以上、かつ、4週間を通じ4日以上の休日を与えることも必須となります。
加えて、選択的措置(4つの選択肢からいずれかを選択して講じなければならない措置)のうち、労働時間(厳密には、健康管理時間)や休日に関する措置を決議した場合は、その対応も必要となります。

以上のように、労働時間・休日の管理については、他の勤務形態とは異なる管理方法を整備する必要があり、勤怠管理システムが対応できない場合等は、その分対応が煩雑になり得ますので注意が必要となります。

【会社視点のデメリット④】処遇に関するルール・運用整備の必要性
高度プロフェッショナル制度の対象者は、より成果重視の働き方が前提となりますので、その評価方法については、適切なルール・運用の整備が必要となります。
一定の年収要件(年収1,075万円以上)を満たすことが前提になる分、それに見合った成果が期待できない状況が起こり得ることも想定した上で、その場合の対応についても事前に検討が必要と言えます。
また、年収要件があることで、同制度の適用者が誰であるかが分かるということは、同時に、対象者の年収下限が他の労働者にも知られてしまうということになりますので、その点は留意が必要です。


【従業員視点のデメリット①】長時間労働になりやすい(自己管理能力が求められる)
労働時間を短縮できるケースと裏返しになりますが、業務が立て込んだり、効率よく業務を進めることができなかったりする場合には、長時間労働につながってしまう可能性があります。
心身ともに健康を保つためにも、恒常的に長時間労働とならないよう注意が必要です。

【従業員視点のデメリット②】時間外労働、休日、深夜の割増賃金が出ない
高度プロフェッショナル制度の対象者は、時間外労働、休日、深夜の割増賃金は発生しません。
極端な例ですが、労使委員会で決議される措置を行っていることが前提ではありますが、どんなに働いたとしても時間外労働手当等の支給はありません。 企業の人事担当としては、こうしたメリットとデメリットを理解した上で、導入有無の検討、および、導入する場合には、適切に運用方法を整備することが重要です。

導入要件

高度プロフェッショナル制度は、以下の2つの対象業務の要件と対象労働者の要件があります。
いずれも労使委員会の決議事項になっています。

【対象業務の要件】

  • 対象業務に従事する時間に関し、使用者から具体的な指示を受けて行うものではないこと
  • 厚生労働省令で定められた業務であること

【対象労働者の要件】

  • 使用者との間の合意に基づき職務が明確に定められていること
  • 確実に支払われる予定の賃金が年1,075万円以上であること

対象業務の要件
高度プロフェッショナル制度は、高度の専門的知識等を有している労働者を想定された制度であり、対象となる業務については、使用者からの具体的な指示を受けて行うものは対象とはなりません。 その上で、対象となる具体的な業務が定められています。

高度プロフェッショナル制度の対象業務

なお、厚生労働省は上記の対象業務になり得る業務に加えて、なり得ない業務の例についてもガイドラインの中で示しています。

対象労働者の要件
高度プロフェッショナル制度の対象者に対しては、書面による合意を得る必要があり、その内容には、①業務の内容、②責任の程度、③求められる成果、を明記しなければなりません。

なお、職務の内容が変わる場合には、あらためて合意を得る必要があります。

更に、対象者の賃金については、確実に支払われる予定の額が年1,075万円以上であることが必要です(労働基準法上の記載では、「基準年間平均給与額の3倍の額を相当程度上回る水準として厚生労働省令で定める額以上であること」とされています)。

この年1,075万円以上の中には、業績や成果等に応じて変動する賞与や減額し得る手当等、支給額があらかじめ確定していない賃金を含めてはならないことには注意が必要です。

なお、賞与の場合、支払われることが確実に見込まれる最低保障額が定められている場合には、その額を含めて問題ありません。 高度プロフェッショナル制度の導入企業が少ないことの背景には、こうした対象業務が限定的であること、その解釈が難しいこと、または、対象労働者の要件である年収水準をクリアすることが難しいことから、導入を見送っている企業も一定数いることが想定されます。

導入手続き

高度プロフェッショナル制度は、労使委員会を設置し、委員の5分の4以上で必要な項目について決議し、労働基準監督署へ届け出が必要となります。
また、導入後においても、決議が行われた日から6カ月以内毎に1回、労基署への定期報告が必要です。

決議する事項は、企画業務型裁量労働制よりも多く、同制度の導入ハードルが高く、導入企業が少ない大きな要因と言えます。
なお、裁量労働制の詳細は以下のページで解説していますのでご興味ある方はご覧ください。
 ➡ 【裁量労働制】専門業務型と企画業務型の違いは?概要をわかりやすく解説

高度プロフェッショナル制度の導入手続き

前述の導入要件(「①対象業務」、「②対象労働者の範囲」)で触れた内容に加え、高度プロフェッショナル制度独自の項目が複数あります。

大きく括るとすると、上2つは対象に関する事項、中4つは健康確保に関する事項、下3つは同意に関する事項とに分かれます。

③健康管理時間の把握
対象者の健康管理時間を客観的な方法で把握しなければなりません。
健康管理時間とは、対象者が事業場内にいた時間と事業場外において労働した時間の合計を指します。

健康管理時間から労働時間以外の時間を除くことを決議する場合は、その内容や性質を具体的に明らかにした上で、客観的な方法で把握する必要があります。

例えば、事業場内にてお昼休み等の一定の休憩時間を取得するような場合には、その内容やその時間の客観的な把握方法を決議で定める必要があります。

④休日の確保
対象者は、年間104日以上、かつ、4週間を通じて4日以上の休日を与えなければなりません。
また、休日の取得の具体的な手続きについても決議にて明らかにすることが必要となります。

対象者が所属する事業場のカレンダーが上記を満たし、それ通りに働く限りにおいては問題ないと言えます。
しかし、対象者が、休日労働をしたり、休日を不規則に取得したりするような働き方をする場合には注意が必要です。

⑤選択的措置
以下のいずれかの措置を決議で定め、実施しなければなりません。

  • 勤務間インターバルの確保(11時間以上)+深夜業の回数制限(1カ月に4回以内)
  • 健康管理時間の上限措置(1週間あたり40時間を超えた時間について、1カ月100時間以内、または、3カ月240時間以内とすること)
  • 1年に1回以上の連続2週間の休日を与えること(本人が請求した場合は連続1週間×2回以上)
  • 臨時の健康診断(1週間あたり40時間を超えた健康管理時間が、1カ月80時間を超えた労働者、または、申出があった労働者が対象)

対象者の働き方次第では、自然と以下の措置を果たす場合もあるかもしれませんが、そうではない場合は特に、対象者および対象業務等を踏まえて、適切な措置を検討し、確実に実施することが求められます。

⑥健康管理時間の状況に応じた健康・福祉確保措置
以下のいずれかの措置を決議で定め、実施しなければなりません。

  • 上述の「選択的措置」のいずれかの措置の追加
  • 医師による面接指導
  • 代償休日又は特別な休暇の付与
  • 心とからだの健康問題についての相談窓口の設置
  • 適切な部署への配置転換
  • 産業医等による助言指導又は保健指導

上記に加え、「⑦同意の撤回に関する手続」、「⑧苦情処理措置」、「⑨不利益取扱いの禁止」を決議しなければなりません。

以上の通り、多岐にわたる項目について労使委員会で決議する必要があります。
当然ながら、決議内容は、その実施そのものが重要となりますので、それぞれの内容が適切に運用、実施されることを前提に制度導入や環境整備の準備が必要です。

おわりに

この記事では『高度プロフェッショナル制度』について解説してきました。
高度プロフェッショナル制度は、高度な専門性を持った労働者を対象に、原則、労働基準法に定められた労働時間、休憩、休日および深夜割増賃金に関する規定の適用を受けない勤務形態です。
ただし、導入手続きのハードルが高い等、本制度のメリット以外の側面も十分に理解する必要があります。
また、2019年4月に施行された比較的新しい制度であることから、現状は、導入企業が少ないため、実際の活用事例や顕在化した課題等も、情報としては少ないことには留意が必要です。
企業の人事労務担当者としては、こうした複数の要素を十分に留意の上、導入有無を含めて、その活用を検討し、導入する場合には、適切に運用することが重要となります。

【参考】
e-Gov 労働基準法
厚生労働省 「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」について
厚生労働省 ⾼度プロフェッショナル制度 わかりやすい解説
厚生労働省 高度プロフェッショナル制度の概要
厚生労働省 ⾼度プロフェッショナル制度 届出にあたって

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