【賃金】賃金支払いの5原則?概要をわかりやすく解説

賃金 給与・社会保険

こんにちは、IT企業で人事をしている労務女子なおです。
本記事では、労働基準法における『賃金』に関して3分程度で概観できるよう解説します。

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賃金とは

労働基準法における『賃金』は、同法第11条に定めがあり、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払う全てのものと定められています。

賃金は「労働の対償」となりますので、①任意的恩恵的給付、②福利厚生給付、③実費弁済的なものとは区別され、これら①~③に当たるものは賃金ではないとされています。なお、①任意的恩恵的給付や通勤手当等で、就業規則や労働協約で支給基準が明確なものは、賃金に該当すると解釈されます。
また、「使用者が労働者に支払う」との言葉の通り、例えば、お客から直接受け取るチップ等は賃金ではないとされています。

労働基準法の賃金を定義している第11条は、以下の条文の通りです。

【労働基準法 第11条】 条文抜粋

第十一条 この法律で賃金とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう。

具体的に賃金に該当するものと該当しないものの例は以下の通りです。

賃金に該当するもの

  • 基本賃金
  • 賞与
  • 通勤手当(課税分・非課税分を問わない)
  • 定期券
  • 超過勤務手当
  • 住宅手当
  • 地域手当
  • 扶養手当・家族手当・子供手当
  • 休業手当(労働基準法第26条に基づき支払うもの)
  • 社会保険料・雇用保険料など(労働者負担分を事業主が負担する場合)

賃金に該当しないもの

  • 結婚祝金・弔慰金・見舞金など(就業規則等に支給基準が明確に定められていないもの)
  • 出張旅費
  • 業務に必要な作業品など
  • チップ(お客から直接受け取るもの)
  • 財形等の奨励金
  • 生命保険料補助金
  • 休業補償
  • 傷病手当金
  • 解雇予告手当
  • 災害補償
  • 役員報酬

賃金支払いの5原則

賃金については、労働基準法の第3章(第24条~第31条)に関連条文の記載があり、第24条にて支払いについて以下の5つを定めています。これらは、賃金支払いの5原則と言われています。

  1. 通貨払の原則
  2. 直接払の原則
  3. 全額払の原則
  4. 毎月1回以上払の原則
  5. 一定期日払の原則

通貨払の原則

賃金は通貨で支払わなければならず、現物(商品など)で支払うことは許されていません。
ただし、労働協約で定めた場合は、通貨ではなく現物での支払いが可能となります。なお、労働協約は労働協約の適用を受ける労働者に限られる点、労使協定を定めた場合も現物での支払いが認められるわけではない点には注意が必要です。
また、労働者の同意を得た場合は、銀行振込み、電子マネー(デジタル払い)等の方法も可能となります。

直接払の原則

賃金は直接労働者本人に支払わなければなりません。よって、労働者の親権者その他の法定代理人などへの支払いは許されていません。
ただし、派遣社員に対して派遣先の使用者が手渡すだけの場合や、行政官庁の差押処分に従う場合などは、同原則違反には当たりません。

全額払の原則

賃金は全額残らず支払われなければなりません。よって、積立金などの名目で強制的に賃金の一部を控除することは禁止されています。
ただし、所得税・社会保険料など、法令で定められているものの控除は認められています。また、労使協定を結んでいる場合は、福利厚生施設にかかる費用や財形や労働組合費などの控除も認められています。
加えて、以下の端数処理についても、同原則違反には当たりません。

  1. 1時間あたりの賃金額、および、割増賃金額に円未満の端数が生じた場合、四捨五入すること
  2. 1カ月における割増賃金の総額に1円未満の端数が生じた場合、四捨五入すること
  3. 1カ月における割増賃金の根拠となる労働時間数の合計に、1時間未満の端数がある場合、30分未満の端数を切り捨て、それ以上を1時間に切り上げること
  4. 1カ月の賃金額(賃金の一部を控除して支払う場合には控除した残額)に100円未満の端数が生じた場合、四捨五入すること
  5. 1カ月の賃金額に1,000円未満の端数がある場合は、その端数を翌月の賃金支払日に繰り越して支払うこと

なお、上記4、5の端数処理をする場合は、その旨を就業規則に定めることが必要となります。

毎月1回以上払の原則

(以下、「一定期日払の原則」と合わせて記載)

一定期日払の原則

賃金は、毎月1回以上、一定の期日を定めて支払わなければなりません。よって、2カ月分を翌月にまとめて支払うといった対応や、支払日を「毎月○日~○日の間」、「毎月第4金曜日」など変動する期日とすることも認められていません。
ただし、臨時に支払われる賃金や賞与は同原則の例外となっています。なお、例えば、年俸制の会社において、夏と冬に年収の3/18カ月分の定額を賞与と称して支払っているものは、賞与には該当しません。

賃金の非常時払

労働基準法第25条では、「使用者は、労働者が出産、疾病、災害その他厚生労働省令で定める非常の場合の費用に充てるために請求する場合においては、支払期日前であっても、既往の労働に対する賃金を支払わなければならない」としています。
同条は、前述の賃金の「一定期日払の原則」の例外となります。

厚生労働省令で定める非常の場合とは、労働者、または、その収入によって生計を維持する者が以下に該当するものとされています。

  • 出産
  • 疾病(業務上、業務外を問わない)
  • 災害
  • 結婚
  • 死亡
  • やむを得ない事由による1週間以上の帰郷

休業手当

労働基準法第26条では、「使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の100分の60以上の手当を支払わなければならない」としています。
休業手当の対象となるのは、あくまで使用者の帰責事由のある休業期間となるため、天災地変等の場合は休業手当の支払いは不要となります。

出来高払制の保障給

労働基準法第27条では、「出来高払制その他の請負制で使用する労働者については、使用者は、労働時間に応じ一定額の賃金の保障をしなければならない」としています。
これは、労働者が就業したにもかかわらず、労働者の責に帰すことができない理由により出来高が減少し、著しく賃金が低下することを防止するための定めです。なお、労働基準法においては、この保障給の額についての規定はありませんが、休業手当(平均賃金の6割程度)が一つの目安とされています。また、この保障給についても、最低賃金法に基づく最低賃金を下回ることは認められません。なお、最低賃金については、労働基準法第28条に最低賃金法の定めるところによる旨が定められています。

なお、『最低賃金法』の詳細は以下で解説しています。
 ➡ 【最低賃金法】地域別最低賃金と特定最低賃金?概要をわかりやすく解説

平均賃金

労働基準法においては、労働者の生活を保障するために以下の手当、補償等を規定しており、その算定に平均賃金が用いられます。平均賃金は、労働者の生活資金をありのまま算定することを基本としており、原則として、事由の発生した日以前3カ月間において、その労働者に支払われた賃金の総額を、その期間の総日数(暦日数)で除した金額になります。
なお、算定方法については、労働基準法第12条に規定されています。

  • 解雇の予告に代えて支払う解雇予告手当(第20条)
  • 使用者の責に帰すべき事由による休業中に支払う休業手当 (第26条)
  • 年次有給休暇の日について支払われる賃金(第39条)
  • 労働者が業務上負傷、もしくは、疾病にかかり、または死亡した場合の災害補償のうち、休業補償(第76条)、障害補償(第77条)、遺族補償(第79条)、葬祭料(第80条)
  • 打切補償(第81条)
  • 分割補償(第82条)
  • 減給の制裁の制限額(第91条)

おわりに

この記事では、労働基準法における『賃金』について解説してきました。
労働基準法における『賃金』は、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払う全てのものとして、同法第11条に定められています。
賃金は従業員の生活の糧になる重要な労働条件となりますので、企業の人事労務担当者は、その前提となる基礎を正しく理解し、各種の実務を行う必要があります。

【参考】
e-Gov 労働基準法
厚生労働省 賃金 (賃金引上げ、労働生産性向上)
厚生労働省 労働条件・職場環境に関するルール

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