こんにちは、IT企業で人事をしている労務女子なおです。
本記事では『通勤災害』に関して3分程度で概観できるよう解説します。
通勤災害とは
通勤災害とは、労働者が通勤によって被った負傷、疾病、障害、死亡をいいます。労働者災害補償保険法(以下、労災保険法)では、通勤災害に対して、業務災害の場合と同様に、必要な保険給付がなされることとされています。
労災保険による保険給付は、「療養給付」、「休業給付」、「傷病年金」、「介護給付」、「障害給付」、「遺族給付」、「葬祭給付」があります。これらは業務災害に関する保険給付とほとんど同様です。
保険給付に際しては、通勤災害として認定が必要となりますが、以下の労災保険法における要件を満たす必要があります。
通勤の定義:就業に関し、以下の移動を、合理的な経路及び方法で行うことをいい、業務の性質を有するものを除きます。
- 住居と就業場所との間の往復
- 単身赴任先住居と帰省先住居との間の移動
- 就業場所から他の就業場所へ
なお、通勤の途中で逸脱や中断がある場合には、その間とその後の移動は原則として通勤とはなりません。ただし、日常生活上必要な行為(日用品の購入など)をやむを得ない事由により最小限度の範囲で行う場合には、逸脱または中断の間を除き、その後の移動は通勤となります。
なお、それぞれの言葉の定義は、以下の通りです。
「就業に関し」:通勤とされるためには、往復または移動が業務と密接な関連をもって行われることが必要です。そのため、被災当日に就業することとなっていたこと、または現実に就業していたことが必要となります。その際、遅刻やラッシュを避けるための早出など、通常の出勤時刻と時間的にある程度の前後があった場合も就業との関連性は認められます。
「住居」:労働者が居住して日常生活の用に供している家屋等の場所で、本人の就業のための拠点となるところをいいます。そのため、就業の必要上、労働者が家族の住む場所とは別に就業の場所の近くにアパートを借り、そこから通勤している場合には、そこが住居となります。また、通常は家族のいる所から通勤しており、天災や交通ストライキ等の事情のため、やむを得ず会社近くのホテル等に泊まる場合などは、当該ホテルが住居となります。
「就業の場所」:業務を開始、または終了する場所をいいます。一般的には、会社や工場等の本来の業務を行う場所をいいますが、外勤業務に従事する労働者で、特定区域を担当し、区域内にある数か所の用務先を受け持って自宅との間を往復している場合には、自宅を出てから最初の用務先が業務開始の場所となり、最後の用務先が業務終了の場所となります。
「合理的な経路及び方法」:往復または移動を行う場合に、一般に労働者が用いるものと認められる経路及び方法をいいます。合理的な経路については、通勤のために通常利用する経路であれば、複数あったとしてもそれらの経路はいずれも合理的な経路となります。また、当日の交通事情により迂回してとる経路、マイカー通勤者が貸切りの車庫を経由して通る経路など、通勤のためにやむを得ずとる経路も合理的な経路となります。しかし、特段の合理的な理由もなく、著しく遠回りとなる経路をとる場合などは、合理的な経路とはなりません。合理的な方法については、鉄道・バス等の公共交通機関を利用する場合、自動車・自転車等を本来の用法に従って使用する場合、徒歩の場合等、通常用いられる交通方法は平常用いているかどうかにかかわらず、一般に合理的な方法となります。また、会社が認めた方法かどうかは問いません。
「業務の性質を有するもの」:上記をみたす往復または移動であっても、その行為が業務の性質を有するものである場合には、通勤となりません。具体的には、事業主の提供する専用交通機関を利用して出退勤する場合や緊急用務のため休日に呼出を受けて緊急出勤する場合などが該当し、これらの行為による災害は業務災害となります。
「往復の経路を逸脱し、又は中断した場合」:逸脱とは、通勤の途中で就業や通勤と関係のない目的で合理的な経路をそれることをいい、中断とは、通勤の経路上で通勤と関係のない行為を行うことをいいます。具体的には、通勤の途中で映画館に入る場合、バーで飲酒する場合などをいいます。 しかし、通勤の途中で経路近くの公衆便所を使用する場合や経路上の店でタバコやジュースを購入する場合などのささいな行為を行う場合には、逸脱、中断とはなりません。ただし、以下のように、やむを得ない事由により最小限度の範囲で行う日常生活上必要な行為については例外として、逸脱または中断の間を除き、その後の移動は通勤となります。
- 日用品の購入その他これに準ずる行為
- 職業訓練、学校教育法第1条に規定する学校において行われる教育その他これらに準ずる教育訓練であって職業能力の開発向上に資するものを受ける行為
- 選挙権の行使その他これに準ずる行為
- 病院または診療所において診察または治療を受けることその他これに準ずる行為
通勤災害発生時の申請手続き
通勤災害の労災保険の保険給付を受けるためには、被災の当事者である労働者自身が申請を行い、労働基準監督署が労災認定を判断します。
手続きについては、受診した労災保険指定の医療機関かそうでないかで異なります。
労災保険指定以外の医療機関を受診する場合は、被災者が治療費を全額立て替える必要がありますが、労災保険指定の医療機関を受診する場合は、治療費の支払いは不要(初診時のみ200円要負担)となります。
労災保険指定の医療機関の場合、治療を受けた医療機関へ指定の請求書を提出します。労災保険指定以外の医療機関の場合、労働基準監督署へ指定の請求書を提出します。請求書の提出後、労働基準監督署の審査の結果、通勤災害として認定されると、立て替えた治療費が支払われます。
なお、労災保険指定の医療機関、申請に必要な請求書の書式は、厚生労働省のホームページに掲載されています。
上記は、通勤災害が発生した場合、一般的に最初に対応が必要となる「療養給付」の手続きとなりますが、会社を休む場合や障害が残る場合など、「休業給付」、「傷病年金」、「介護給付」、「障害給付」、「遺族給付」、「葬祭給付」を受ける場合には、それぞれ必要な書類が異なります。
おわりに
この記事では、『通勤災害』について解説してきました。
労災保険法では、労働者が通勤によって被った負傷、疾病、障害、死亡に対して、業務災害の場合と同様に保険給付がなされます。労働基準監督署にて通勤災害と認定されるためには、そのための要件をみたす必要があります。企業の人事労務担当者としては、様々な事例が生じた場合に、適切に従業員の対応をサポートできるようそれぞれ言葉の定義や関連手続きの流れを理解しておく必要があります。
【参考】
e-Gov 労働安全衛生法
厚生労働省 労災補償
厚生労働省 労災補償・労働保険徴収関係