こんにちは、IT企業で人事をしている労務女子なおです。
本記事では『勤務間インターバル制度』に関して、3分程度で概観できるよう解説します。
勤務間インターバル制度とは
勤務間インターバル制度とは、勤務の終了後、次の勤務開始の間に、一定時間以上の休息時間(インターバル)を設けることで、従業員の生活時間や睡眠時間を確保することを目的とした制度です。
2019年4月施行の労働時間等設定改善法が改正され、事業主の努力義務として、勤務間インターバル制度の導入が追加されました。働き方改革関連法による大きな改正の1つとしても注目されています。
努力義務となりますので、導入していないからといって罰則などが科されることはありません。
なお、インターバル時間数の設定については、厚生労働省が、最低でも11時間のインターバル時間を確保する措置を設けるとするEU労働指令も紹介しており、高度プロフェッショナル制度導入に伴う選択的措置においても11時間以上が必要とされています。更に、企画業務型裁量労働制の健康・福祉確保措置としても、11時間以上が参考とされています。
また、時間外労働等改善助成金(勤務間インターバル導入コース)の支給要件として9時間以上としていることも一つの目安となります。
なお、『高度プロフェッショナル制度』、『裁量労働制』の詳細は以下で解説しています。
➡ 【高度プロフェッショナル制度】導入企業少ない?概要をわかりやすく解説
➡ 【裁量労働制】専門業務型と企画業務型の違いは?概要をわかりやすく解説
【労働時間等設定改善法第2条】 条文一部抜粋
(事業主等の責務)
第二条 事業主は、その雇用する労働者の労働時間等の設定の改善を図るため、業務の繁閑に応じた労働者の始業及び終業の時刻の設定、健康及び福祉を確保するために必要な終業から始業までの時間の設定、年次有給休暇を取得しやすい環境の整備その他の必要な措置を講ずるように努めなければならない。
勤務間インターバル制度については、2021年7月30日に内容変更が閣議決定された「過労死等の防止のための対策に関する大綱」の中で以下の数値目標がたてられています。
- 2025年までに、勤務間インターバル制度を知らなかった企業割合を5%未満とする
- 2025年までに、勤務間インターバル制度を導入している企業割合を15%以上とする
当初2018年に初めて設定された数値目標においては、2020年までに、知らなかった企業割合を20%未満、導入企業を10%以上とするとされていました。
なお、国内で社会問題化している『過労死』の詳細は以下で解説しています。
➡ 【過労死ライン】労災認定基準とは?概要をわかりやすく解説
労働時間等に関する規制としては、時間外労働の上限規制(いわゆる36協定)がその代表として労働基準法にありますが、それだけでは、特定の日や特定の期間において、生活時間や睡眠時間を充分に確保することが難しい状況が存在していました。
そのため、勤務間インターバル制度を導入することで、休息の重要性を労使ともに認識し、毎日の休息時間の確保が可能となります。
なお、『36協定』の詳細は以下で解説しています。
➡ 【36協定】残業時間の上限規制とは?概要をわかりやすく解説
厚生労働省は、勤務間インターバル制度の導入による効果として、以下を挙げています。
① 従業員の健康の維持・向上
② 従業員の確保・定着
③ 生産性の向上
また、継続的な睡眠不足が疲労を慢性化させ、パフォーマンス低下を招くことを示した米国の医学的知見を引用しながら、毎日の睡眠時間の重要性を紹介しています。
更に、業種別の勤務間インターバル制度導入・運用マニュアルを公開しています。
導入手続き
勤務間インターバル制度の導入には、労使による話し合いを土台とした上で、次の4つのフェーズに沿ってPDCAサイクルを回しながら進めることが重要です。
① 制度導入を検討する
② 制度を設計する
③ 制度を導入・運用する
④ 制度内容・運用方法を見直す
休息時間(インターバル時間)を設定については、現状の把握と課題整理が重要となります。
具体的には、労働者の生活時間、睡眠時間、通勤時間、勤務形態や勤務実態等を十分に考慮し、その上で、仕事と生活の両立が可能、かつ、実効性のある休息時間が確保されるよう検討する必要があります。
場合によっては、会社全体で一律の休息時間(インターバル時間)の設定とするのではなく、組織や職種によって取扱いを分けること、例外規定を設けることで特別な事情が生じた場合には適用除外とする等、組織の実態に応じて柔軟な運用を可能とすることも検討すると良いでしょう。
なお、勤務間インターバル制度の導入にあたって、中小企業事業主に対しては、厚生労働省が「働き方改革推進支援助成金(勤務間インターバル導入コース)」を整備しており、取り組み内容に応じて助成金を支給しています。
労働時間等設定改善法
勤務間インターバル制度は、2019年4月施行からの比較的新しい制度となりますが、その法的な根拠となっている「労働時間等設定改善法」は、日本の労働時間等の変遷を経て現在のかたちに至っています。
「労働時間等設定改善法」は、正式には「労働時間等の設定の改善に関する特別措置法」という名称の法律です。
同法は、事業主が労働時間等の設定の改善に向けた自主的な努力を通じて、労働者の能力を有効に発揮し、健康で充実した生活を実現すること、経済の発展を目的とした法律です。
元々は、1992年に、5年間の時限法として成立した「時短促進法」(正式名称を「労働時間の短縮の促進に関する臨時措置法」)がその前身となります。
この「時短促進法」においては、年間総実労働時間1,800時間の数値目標を掲げ、完全週休二日制の普及促進をはじめ、年次有給休暇の取得促進や残業時間の削減が進められました。
その後、1997年、2001年に廃止期限を延長し、2006年に現在の名称とし、恒久法となりました。
これに伴い、一律の労働時間短縮ではなく、労働時間等の設定を労働者の健康と生活に配慮するとともに、多様な働き方に対応したものへ改善するための法律に改められました。
おわりに
この記事では『勤務間インターバル制度』について解説してきました。
勤務間インターバル制度は、従業員の生活時間や睡眠時間を確保することを目的とした制度ですが、現在は努力義務となります。
法的に導入必須の制度ではありませんが、企業の人事労務担当者としては、自社の実態を踏まえた導入要否の検討、導入する場合には従業員のワークライフバランスを踏まえた制度設計・運用が重要となります。
【参考】
e-Gov 労働時間等の設定の改善に関する特別措置法
厚生労働省 労働時間等の設定の改善
厚生労働省 勤務間インターバル制度とは
厚生労働省 勤務間インターバル制度普及促進のための有識者検討会