【高年齢者雇用安定法】就業確保措置とは?概要をわかりやすく解説

高年齢者雇用安定法 雇用・両立支援

こんにちは、IT企業で人事をしている労務女子なおです。
本記事では『高年齢者雇用安定法』に関して、3分程度で概観できるよう解説します。

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高年齢者雇用安定法とは

高年齢者雇用安定法は、国内において少子高齢化が急速に進行し人口が減少する中で、経済社会の活力を維持するため、働く意欲がある誰もが年齢にかかわりなくその能力を十分に発揮できるよう、高年齢者が活躍できる環境整備を図る法律です。

正式名称を「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」といい、1971年に制定された「中高年齢者等の雇用の促進に関する特別措置法」が1986年に現在の名称に改称されました。
その後、大きな法改正としては、65歳までの雇用確保の義務化を目的とした2012年の改正(2013年4月施行)70歳までの就業機会確保を努力義務とする2020年の改正(2021年4月施行)が行われています。

同法の具体的な措置としては、事業主に対して、定年年齢を60歳未満とすることを禁止し、以下3つの措置のいずれかの実施が義務付けられています。

  • 65歳までの定年引き上げ
  • 65歳までの継続雇用制度の導入
  • 定年制の廃止

加えて、2021年4月施行の法改正により、以下の措置が努力義務となりました。

  • 70歳までの就業機会確保

上記のそれぞれの措置の詳細は後述します。
また、事業主は高年齢者雇用に関する届出が必要になります。

①高年齢者雇用状況等報告
毎年6月1日現在の高年齢者の雇用に関する状況を7月15日までにハローワークに報告する必要があります(高年齢者雇用安定法52条第1項)。
実務的に、東京労働局では従業員20人以上規模の事業所に対して、報告書用紙を郵送することとなっています。

ちなみに、この高年齢者雇用状況等報告は、同様に6月1日時点での状況を報告する「障害者雇用状況報告」(障害者雇用促進法第43条第7項)と合わせて、通称「ロクイチ報告」と呼ばれています。
なお、障害者雇用促進法の詳細は以下で解説しています。
 ➡ 【障害者雇用促進法】雇用義務、法定雇用率とは?概要をわかりやすく解説

②多数離職届
1カ月以内の期間に45歳以上70歳未満の者のうち5人以上を解雇等により離職させる場合は、あらかじめ、ハローワークに報告する必要があります(高年齢者雇用安定法第16条)。

一方、国は、事業主が高年齢者雇用に関して利用できる支援策として、「65歳超雇用推進助成金」として、「65歳超継続雇用促進コース」、「高年齢者無期雇用転換コース」、「高年齢者評価制度等雇用管理改善コース」の3つのコースで構成された助成金などを整備している。
その他、(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構による相談・援助・情報提供や、市区町村単位で設置された公益法人によって運営されるシルバー人材センター事業の推進なども行われています。

高年齢者雇用安定法の主な内容

同法に関して、企業の人事労務担当者として適切に理解しておくべき主な内容を説明します。

60歳未満の定年禁止

そもそも「定年」とは、会社があらかじめ定めた年齢に達したときに、雇用契約を終了し、退職させる制度のことを指します。
高年齢者雇用安定法では、この定年に関して、事業主が定年を定める場合は、その定年年齢は60歳以上としなければならないこととしています。

この定年年齢については、後述の雇用確保、就業機会確保とあわせて、以下の通り、公的年金の支給開始年齢の引き上げと深く関係しながら、改正が行われてきた変遷があります。

高年齢者雇用安定法と公的年金の歴史

65歳までの雇用確保措置

高年齢者雇用安定法では、定年を65歳未満に定めている事業主は、以下のいずれかの措置を講じなければならないこととしています。

① 65歳までの定年引き上げ
② 65歳までの継続雇用制度の導入
③ 定年制の廃止

上記②の継続雇用制度を導入する場合、その適用者は原則として「希望者全員」となります。
ただし、2013年3月31日以前は、労使協定により基準を定めた場合は、希望者全員を対象としない制度も可とされていたことから、2013年3月31日までに、労使協定により制度適用対象者の基準を定めていた場合は、経過措置として、2025年3月31日まで段階的に引き上げることで従来の基準を適用可能とされています。

70歳までの就業機会確保(努力義務)

高年齢者雇用安定法では、2020年の改正(2021年4月施行)により、前述の65歳までの雇用確保措置に加え、65歳から70歳までの就業機会を確保するため、以下のいずれかの措置を講ずることが努力義務となっています。

① 70歳までの定年引き上げ
② 定年制の廃止
③ 70歳までの継続雇用制度の導入(他の事業主によるものを含む)
④ 70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入
⑤ 70歳まで継続的に以下の事業に従事できる制度の導入
  a. 事業主が自ら実施する社会貢献活動
  b. 事業主が委託、出資等する団体が行う社会貢献活動

上記の高年齢者就業確保措置の努力義務を負う事業主は、定年を65歳以上70歳未満に定めている事業主、もしくは、継続雇用制度(70歳以上まで引き続き雇用する制度を除く。)を導入して いる事業主となります。

上記①②③は、「雇用による措置」、④⑤は、「創業支援等措置(雇用によらない措置)」に大別されます。

「雇用による措置」である③継続雇用制度については、いくつかの留意点があります。
まず、60歳以上65歳未満が対象の継続雇用制度の範囲が広がり、自社、特殊関係事業主に加えて、それ以外の他社も可能となります。
ただし、特殊関係事業主または特殊関係事業主以外の他社で継続雇用する場合には、自社と特殊関係事業主等との間で、特殊関係事業主等が高年齢者を継続して雇用することを約する契約を締結する必要があります。
また、有期労働契約が通算で5年を超えて更新された場合に生じる無期転換申込権は、適切な雇用管理に関する計画を作成し、都道府県労働局長の認定を受けることで、その申込権が発生しない特例が認められますが、他社で継続雇用される場合は、この特例の対象にはなりません。

「創業支援等措置(雇用によらない措置)」である④⑤を実施する場合には、12の記載事項を含めた計画を作成し、過半数労働組合等の同意を得た上で、計画を周知する必要があります。
また、事業主が委託、出資等する団体が社会貢献事業を行う場合、高年齢者の就業先となる団体と契約を締結する必要があります。

上記③④⑤を実施する場合に共通して、対象者を限定する基準を設けることが可能です。
ただし、事業主が恣意的に一部の高年齢者を排除しようとするなど法の趣旨や、他の労働関係 法令・公序良俗に反するものは認められません。
また、過半数労働組合等と充分に協議の上で同意を得ることが望ましいとされています。
なお、心身の故障のため業務に堪えられない、勤務状況が著しく不良等、就業規則に定める解雇事由又は退職事由に該当する場合には、65歳までの継続雇用制度と同様に、契約を継続しないことが認められます。

おわりに

この記事では『高年齢者雇用安定法』について解説してきました。
高年齢者雇用安定法は、高年齢者の職業の安定等を図ることを目的としており、少子高齢化の進行が継続する日本においては、今後も改正が行われることが想定され、企業の人事労務担当者としては、同法の正しい理解に加え、今後の動向に注視しながら、中長期の視点を持った対応が重要となります。

【参考】
e-Gov 高年齢者等の雇用の安定等に関する法律
厚生労働省 高年齢者雇用・就業対策
厚生労働省 高年齢者の雇用

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