こんにちは、IT企業で人事をしている労務女子なおです。
本記事では『性同一性障害特例法』に関して3分程度で概観できるよう解説します。
性同一性障害特例法とは
性同一性障害特例法とは、トランスジェンダーに関する法律で、同法で定める条件を満たした場合に、家庭裁判所の審判により、法令上の性別の取扱いと戸籍上の性別記載の変更を可能とすることを規定しています。正式名称を「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」といい、通称「性同一性障害特例法」と呼ばれています。
同法は、2003年7月に成立し、2004年7月に施行されました。
その後、いわゆる「子なし要件」と言われる条件が一部変更される法改正が2008年6月に成立し、同年12月に施行されました。
同法の趣旨は、以下の第1条に規定されています。
各法律の第1条には、その法律の目的や趣旨が定義されており、当該法律の概要を理解することに役立ちます。
【性同一性障害特例法第1条】 条文抜粋
(趣旨)
第一条 この法律は、性同一性障害者に関する法令上の性別の取扱いの特例について定めるものとする。
性同一性障害者の定義
性同一性障害は、生物学的な性と心理的な性に不一致を来している状態のことを指します。
英語では、Gender Identity Disorder(GID)と表現されます。
性同一性障害特例法における「性同一性障害者」については、第2条にてその定義が記されています。
【性同一性障害特例法第2条】 条文抜粋
(定義)
第二条 この法律において「性同一性障害者」とは、生物学的には性別が明らかであるにもかかわらず、心理的にはそれとは別の性別(以下「他の性別」という。)であるとの持続的な確信を持ち、かつ、自己を身体的及び社会的に他の性別に適合させようとする意思を有する者であって、そのことについてその診断を的確に行うために必要な知識及び経験を有する二人以上の医師の一般に認められている医学的知見に基づき行う診断が一致しているものをいう。
同法の定義は、性別の取扱いに関する同法の趣旨を踏まえ、医学的な定義とは異なり、2人以上の医師の診断が一致する等の厳格な規定となっています。
性別の取扱いの変更の審判
同法の定義する性同一性障害者については、以下の要件のいずれにも該当する者について、性別の取扱いの変更の審判により、法令上の性別の取扱いと戸籍上の性別記載を変更することができます。
なお、③の要件については、元々「子がいない」とされていた内容から、2008年の法改正にて「未成年の子がいない」に緩和されました。
① 18歳以上であること
② 現に婚姻をしていないこと
③ 現に未成年の子がいないこと
④ 生殖腺がないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること
⑤ 他の性別の性器の部分に近似する外観を備えていること
具体的には、第3条にてその内容が記されています。
【性同一性障害特例法第3条】 条文抜粋
(性別の取扱いの変更の審判)
第三条 家庭裁判所は、性同一性障害者であって次の各号のいずれにも該当するものについて、その者の請求により、性別の取扱いの変更の審判をすることができる。
一 十八歳以上であること。
二 現に婚姻をしていないこと。
三 現に未成年の子がいないこと。
四 生殖腺せんがないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること。
五 その身体について他の性別に係る身体の性器に係る部分に近似する外観を備えていること。
2 前項の請求をするには、同項の性同一性障害者に係る前条の診断の結果並びに治療の経過及び結果その他の厚生労働省令で定める事項が記載された医師の診断書を提出しなければならない。
なお、同法における各要件(②婚姻をしていない、③未成年の子がいない、④生殖腺がないか機能を永続的に欠く状態)に関しては、その要件が憲法違反かどうかを争われた家事審判の判決にて、最高裁判所は合憲であるとの判断が示されていました。
しかしながら、2023年10月25日、④のいわゆる手術要件に関しては、最高裁判所大法廷が、憲法に違反して無効であるとの判断をしています。この判断を受けて、今後同法は見直しの議論が進んでいくことが見込まれています。
おわりに
この記事では『性同一性障害特例法』について解説してきました。
同法は、直接的に事業主の対応を求める内容が規定された法律ではありませんが、企業の人事労務担当者としては、多様な従業員を雇用することに伴い、トランスジェンダーの方々の置かれた立場を理解するべく、同法や関連知識を適切に認識しておく必要があります。
なお、LGBTなど性的少数者らへの理解を促す取り組みに関して定めた法律である『LGBT理解増進法』の詳細は以下で解説しています。
➡ 【LGBT理解増進法】企業の対応は?概要をわかりやすく解説
昨今では、性同一性障害の経済産業省の職員が、職場の女性用トイレの使用制限は不当として国を訴えた裁判にて、最高裁判所が使用制限を認めない判断を示したことが話題になっています。本事案の判決はあくまで事例判決ではあるものの、今後、職場におけるトランスジェンダーの方からの相談への対応など、多様な従業員に配慮しながら、企業として適切な職場環境の整備が必要になります。
【参考】
e-Gov 性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律
最高裁判所 性別の取扱いの変更