【個別労働紛争解決促進法】あっせん?概要をわかりやすく解説

個別労働紛争解決促進法 雇用・両立支援

こんにちは、IT企業で人事をしている労務女子なおです。
本記事では『個別労働紛争解決促進法』に関して3分程度で概観できるよう解説します。

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個別労働紛争解決促進法とは

個別労働紛争解決促進法とは、個々の労働者と事業主とのトラブルが生じた際の解決の手続きを定めた法律です。
具体的には、都道府県労働局の「総合労働相談」コーナーにおける情報提供・相談、労働局長による「助言・指導」、紛争調整委員会による「あっせん」制度があり、いずれも、無料で利用することができます。同法は、2001年10月に施行され、正式名称は「個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律」です。

なお、個別労働紛争解決制度としては、同法による「総合労働相談」、「助言・指導」、「あっせん」の他に、裁判所における非訟手続としての労働審判制度などが整備されていますが、最終的には民事訴訟制度により解決されます。

主な制度の比較は以下の通りです。

紛争解決制度の比較

また、個別労働紛争解決促進法や労働審判法が、あくまで“個々の労働者”と企業との間における個別労働関係紛争についての解決を図ることに対して、“労働組合”と企業との間における集団的労働紛争についての調整や救済について、労働関係調整法や労働組合法で定めています。

同法による「助言・指導」、「あっせん」の対象となる紛争とは、個々の労働者と事業主との間で生じる労働条件その他労働関係に関する事項に関するものとなります。

主な対象と対象外の具体例としては、以下の事項が挙げられます。

対象となる紛争

  • 解雇、雇止め、労働条件の不利益変更などの労働条件に関する紛争
  • いじめ・嫌がらせなどの職場環境に関する紛争
  • 退職に伴う研修費用の返還、営業車など会社所有物の破損についての損害賠償をめぐる紛争
  • 会社分割による労働契約の承継、同業他社への就業禁止など労働契約に関する紛争
  • 募集・採用に関する紛争(ただし、「あっせん」は対象外)

対象とならない紛争

  • 労働組合と事業主の間の紛争
  • 労働者と労働者の間の紛争
  • 他の法律において紛争解決援助制度が設けられている紛争裁判で係争中である、または確定判決が出ているなど、他の制度において取り扱われている紛争

なお、他の法律で取り扱われる紛争とは、例えば、男女雇用機会均等法、労働施策総合推進法、パートタイム・有期雇用労働法及び育児・介護休業法に関する事項が挙げられます。具体例として、労働施策総合推進法に定めるパワーハラスメントに関する紛争は、同法に基づき対応されています。

同法の目的は、以下の第1条に規定されています。
各法律の第1条には、その法律の目的や趣旨が定義されており、当該法律の概要を理解することに役立ちます。

【個別労働紛争解決促進法第1条】 条文抜粋

(目的)
第一条
 この法律は、労働条件その他労働関係に関する事項についての個々の労働者と事業主との間の紛争(労働者の募集及び採用に関する事項についての個々の求職者と事業主との間の紛争を含む。以下「個別労働関係紛争」という。)について、あっせんの制度を設けること等により、その実情に即した迅速かつ適正な解決を図ることを目的とする。

なお、『労働審判法』、『労働関係調整法』、『労働組合法』の詳細は以下で解説しています。
 ➡ 【労働審判法】期日や流れや費用は?概要をわかりやすく解説
 ➡ 【労働関係調整法】同盟罷業・ストライキ?概要をわかりやすく解説
 ➡ 【労働組合法】不当労働行為、労働協約?概要をわかりやすく解説

個別労働紛争解決制度

個別労働紛争解決促進法による個別労働紛争解決制度には、個々の労働者と事業主との間の労働条件や職場環境などをめぐるトラブルを未然に防止し、迅速に解決を図るため、「総合労働相談」、都道府県労働局長による「助言・指導」、紛争調整委員会による「あっせん」の3つの方法があります。

総合労働相談
都道府県労働局、各労働基準監督署内、駅近隣の建物など379か所(2023年4月1日現在)に、あらゆる労働問題に関する相談にワンストップで対応するための総合労働相談コーナーを設置し、専門の相談員が対応します。関連する法令・裁判例などの情報提供、後述の「助言・指導」、「あっせん」についての説明を行い、また、必要に応じて各都道府県の労働委員会、裁判所、法テラス(日本司法支援センター)、労使団体における相談窓口等の他機関と連携も行います。

助言・指導
都道府県労働局長が、紛争当事者に対して解決の方向を示すことで、紛争当事者の自主的な解決を促進します。助言は、当事者の話し合いを促進するよう口頭または文書で行います。指導は、当事者のいずれかに問題がある場合に問題点を指摘し、解決の方向性を文書で示します。
解決に至らなかった場合、希望に応じてあっせんへの移行、もしくは、他の解決手段の説明・紹介が行われます。なお、後述のあっせんは、助言・指導の手続きを経なければ申請できないものではありません。

あっせん
都道府県労働局に設置されている紛争調整委員会のあっせん委員(弁護士や大学教授など労働問題の専門家)が紛争当事者の間に入り、話し合いを促進することにより、紛争の解決を図ります。多大な時間と費用のかかる裁判に比べて、無料、かつ、手続きが迅速、簡便、非公開といった様々なメリットがあります。
あっせんの手続きは、当事者が都道府県労働局雇用環境・均等部(室)、もしくは、総合労働相談コーナーにあっせん申請書を提出することで開始されます。当事者に対して、あっせんの開始通知がなされ、あっせん期日(あっせんが行われる日)に、あっせん委員が、当事者双方の主張の確認や必要に応じての参考人からの事情聴取、当事者間の調整・話し合いの促進、必要に応じて具体的なあっせん案の提示が行われます。
なお、期日は原則1回となり、同一のあっせん期日に当事者双方が別室で待機し、あっせん委員が双方の意見調整を個別に行います(直接の対面はありません)。
あっせんが合意に至らない場合には、打ち切りとなり、他の紛争解決機関の説明・紹介が行われます。

おわりに

この記事では『個別労働紛争解決促進法』について解説してきました。
個別労働紛争解決促進法は、個々の労働者と事業主とのトラブルが生じた際の解決の手続きを定めた法律です。1990年代半ば以降、労働組合と企業との間における集団的労働紛争が減少傾向にある一方で、個別労働紛争は増加傾向にある中で、2001年に個別労働紛争解決促進法が成立し、前述の個別紛争解決制度が整備されました。
企業の人事労務担当者としては、こうした制度を利用しなければならない状況を未然に防ぐ、もしくは当事者同士で適切な話し等を通じた解決を図れるに越したことはありません。一方、職場でのトラブル等を抱えた従業員の立場からすると、気軽に利用できる制度であり、同法および同制度の内容を正しく理解しておくことが必要です。

【参考】
e-Gov 個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律
厚生労働省 個別労働紛争解決制度(労働相談、助言・指導、あっせん)
厚生労働省 パンフレット「職場のトラブル解決サポートします」

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