こんにちは、IT企業で人事をしている労務女子なおです。
本記事では『障害者雇用促進法』に関して、3分程度で概観できるよう解説します。
障害者雇用促進法とは
障害者雇用促進法とは、障害者の雇用の安定を図るための取り組みに関して定めた法律です。
具体的には、「雇用義務」、「差別禁止と合理的配慮」、「職業リハビリテーション」等に関する措置について規定しています。
雇用義務に関しては、従業員に占める身体障害者・知的障害者・精神障害者の割合を「法定雇用率」以上にする義務があり、民間企業においては、2021年3月以降から2024年3月までは2.3%となっています。また、2024年4月に2.5%、2026年7月に2.7%と段階的に引き上がることが決定しています。
正式名称を「障害者の雇用の促進等に関する法律」といい、その目的は、以下の条文の通り、第1条に規定されています。各法律の第1条には、その法律の目的や趣旨が定義されており、当該法律の概要を理解することに役立ちます。
【障害者雇用促進法第1条】 条文抜粋
(目的)
第一条 この法律は、障害者の雇用義務等に基づく雇用の促進等のための措置、雇用の分野における障害者と障害者でない者との均等な機会及び待遇の確保並びに障害者がその有する能力を有効に発揮することができるようにするための措置、職業リハビリテーションの措置その他障害者がその能力に適合する職業に就くこと等を通じてその職業生活において自立することを促進するための措置を総合的に講じ、もつて障害者の職業の安定を図ることを目的とする。
同法は、1960年に「身体障害者雇用促進法」として制定され、その後、知的障害者、精神障害者が対象に追加される等の変遷を経て、現在に至ります。変遷の詳細は後半で紹介します。
企業の人事労務担当者としては、特に後述する「雇用義務」、「差別禁止と合理的配慮」の措置に関する対応が求められます。 なお、「職業リハビリテーション」の措置については、ハローワーク・地域障害者職業センター・障害者就業生活支援センター等の実施機関が職業相談、職業訓練、職業紹介等の取組みを行っています。
雇用義務
障害者雇用促進法において、企業の人事労務担当者にとって、最も重要視するのが障害者の雇用義務への対応となります。
同法では、民間企業、国、地方公共団体等全ての事業主に対して、常用労働者のうち障害者の割合が一定率以上となることを義務づけています。
この率のことを、条文においては「障害者雇用率」と表現されていますが、一般的に「法定雇用率」とも呼ばれています。
民間企業においては、2021年3月に従来の2.2%から2.3%に引き上げられ、更に2023年1月に段階的な引き上げが決定し、2024年4月に2.5%、2026年7月に2.7%となります。
なお、一律の法定雇用率がなじまない特定の職種については、常用雇用労働者数にそれぞれ設定された除外率を乗じ、雇用義務を軽減する制度があります。
雇用義務の対象事業主
上記の通り、民間企業、国、地方公共団体等全ての事業主が対象となります。
民間企業の法定雇用率が2.3%となり、従業員数に2.3%を掛け算した際に1人以上となる最も小さい数字が43.5であることから、障害者を雇用しなければならない民間企業の範囲は従業員数が43.5人以上の事業主ということとなります。
雇用義務の対象障害者の定義
障害者雇用促進法では、雇用義務の対象となる障害者の定義を「身体障害、知的障害、精神障害、その他の心身の機能の障害があるため、長期にわたり、職業生活に相当の制限を受け、又は職業生活を営むことが著しく困難な者をいう」と定めており、まとめると以下の表の通りです。
対象障害者の確認方法については、原則として、障害者手帳等によって確認することとされています。 厚生労働省は「プライバシーに配慮した障害者の把握・確認ガイドライン」を整備し、障害者の把握の留意点や身体障害者手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳の対象、等級、交付申請手続、手帳取得のメリット等もまとめています。
雇用義務に伴い事業主が実施すべき業務
事業主は、障害者雇用促進法に基づく雇用義務に伴い、以下の業務を実施する必要があります。
① 障害者雇用状況の報告
② 障害者雇用納付金の申告
③ 障害者雇用調整金又は報奨金の申請
④ 書類の保存・備付け
障害者雇用状況の報告
事業主は、毎年、6月1日現在における障害者の雇用状況を、7月15日までに、その主たる事業所の所在地を管轄するハローワークに報告しなければなりません。
報告は、所定の様式(障害者雇用状況報告書)により、障害者である労働者の人数を、障害種別・障害程度・労働時間等の区分ごとに報告する必要があります。
前述の雇用義務の対象事業主に記載の通り、従業員数が43.5人以上の事業主は報告義務が発生することとなります。
報告を怠ったり、虚偽の報告を行ったりした場合は、30万円以下の罰則の対象となり得ます。
また、雇用率が著しく低い企業は、翌年1月から2年間の「障害者の雇入れに関する計画」の作成を命じられます。
その後、実施状況が芳しくない場合には適正実施勧告が行われ、更に改善が見られない場合には最終的に企業名の公表となり得ます。
それぞれに当該基準が定められていますので、企業の人事労務担当者としては、そういった事態にならないよう計画的に環境整備を進める必要があります。
ちなみに、この障害者雇用状況報告は、同様に6月1日時点での状況を報告する「高年齢者雇用状況等報告」(高年齢者雇用安定法52条第1項)と合わせて、通称「ロクイチ報告」と呼ばれています。
なお、高年齢者雇用安定法の詳細は以下で解説しています。
➡ 【高年齢者雇用安定法】就業確保措置とは?概要をわかりやすく解説
障害者雇用納付金の申告
障害者雇用促進法では、法定雇用率を達成していない事業主から納付金を徴収する制度を定めています。
常時雇用労働者数が100人を超える事業主は、年度毎に、独立行政法人高齢・障害者雇用支援機構へ法定雇用障害者数に対する不足人数および1人につき月額50,000円の納付金の金額を申告しなければなりません。
申告は、所定の様式により、各月の初日における雇用障害者の数を障害種別・障害程度・労働時間等の区分毎に申告するとともに、障害者個々人毎に、氏名、性別、生年月日、障害種別、障害者手帳の番号、雇入れ年月日、年度内に障害者となった年月日、年度内等級等変更年月日等を申告する必要があります。
ポイントは上記の通りとなりますが、後述の調整金の申請と合わせて、実際の算出方法の詳細や申告の作業は相当に時間のかかる作業であることには注意が必要です。
障害者雇用調整金または報奨金の申請
前述の納付金を財源として、常時雇用労働者数が100人を超える事業主で、法定雇用率を超えて障害者を雇用している場合は、その超えた人数に応じて1人につき月額27,000円の調整金が支給されます。
また、常時雇用労働者数が100人以下の事業主で、各月の雇用障害者数の年度間合計数が一定数(各月の常時雇用している労働者数の4%の年度間合計数または72人のいずれか多い数)を超えて障害者を雇用している場合は、その一定数を超えて雇用している障害者の人数に21,000円を乗じて得た額の報奨金が支給されます。
調整金または奨励金の申請は、前述の納付金の申告と同様、所定の様式により、各月の初日における雇用障害者の数を障害種別・障害程度・労働時間等の区分ごとに申請するとともに、障害者個々人毎に、氏名、性別、生年月日、障害種別、障害者手帳の番号、雇入れ年月日、年度内に障害者となった年月日、年度内等級等変更年月日等を申告する必要があります。
また、上記とは別に、2020年4月以降、週所定労働時間が20時間未満の障害者を雇用する事業主に対する「特例給付金」制度が設けられ、対象障害者1人につき7000円(100人を超える事業主)もしくは5000円(100人以下の事業主)が支給されます。
書類の保存・備付け
事業主は、事業所毎に、その事業所において雇用する障害者である労働者について、身体障害者手帳の写し等の書類を備え付けること、また、その労働者の死亡、退職、解雇の日から3年間保存することとされています。
もにす認定制度
障害者の雇用の促進及び雇用の安定に関する取組の実施状況などが優良な中小事業主を厚生労働大臣が認定する「もにす認定制度」があります。対象となる中小企業は、常時雇用する労働者が300人以下の事業主となっています。
認定された企業は、以下の「障害者雇用優良中小事業主認定マーク」を商品や広告などに使うことができます。
この認定マークのデザインと愛称は、公募を行った結果、決定しました。ロゴは、障害者を企業が丸く優しく包み込み、多様性を受け入れ、「共に社会貢献をしていこう!」という前向きな想いを表したキャラクターであり、「もにす」の愛称は、共に進む(ともにすすむ)という言葉と、企業と障害者が共に明るい未来や社会に進んでいくことを期待して名付けられました。
2023年12月28日現在、372の事業主がもにす認定企業として認定されています。
認定基準の概要は、以下の通りです。
- 指定の取組みに関する評価基準に基づき、20点(特例子会社は35点)以上得ること
- 法定雇用率を達成していること(雇用義務がない場合でも、雇用率制度の対象となる障害者を1名以上雇用していること)
- 過去に認定を取り消された場合、取り消しの日から起算して3年以上経過していること
- 障害者雇用促進法と同法に基づく命令その他の関係法令に違反する重大な事実がないこと
差別禁止と合理的配慮
2016年の障害者雇用促進法の改正により、雇用の分野での障害者に対する差別が禁止され、合理的配慮の提供が義務となりました。
合理的配慮とは、障害者と障害者でない労働者との均等な待遇の確保、または障害者である労働者の有する能力の有効な発揮の支障となっている事情を改善するため、事業主にとって過重な負担にならない範囲において、その障害の特性に配慮した職務の円滑な遂行に必要な施設の整備、援助を行う者の配置その他の必要な措置を講じることを指します。
具体的な措置については、厚生労働省の「障害者差別禁止指針」、「合理的配慮指針」を参照しながら個別に検討・判断が必要になります。
事業主にとって過度な負担に該当するか否かについては、「①事業活動への影響の程度」、「②実現困難度」、「③費用・負担の程度」、「④企業の規模」、「⑤企業の財務状況」、「⑥公的支援の有無」の6要素を総合的に判断して、事業主が判断します。
差別禁止と合理的配慮提供の対象となる障害者は、雇用義務の対象よりも広く、障害者手帳を所持しない精神障害者、高次脳機能障害、特定疾患(難病)を有する者など、長期にわたり職業生活に制限を受ける者も含まれます。
なお、合理的配慮の提供については、障害者雇用促進法だけではなく、障害者基本法を具体化した障害者差別解消法においても、雇用分野に限定せずに、社会生活全般に対して、行政機関・事業者の義務が規定されています。
『障害者基本法』、『障害者差別解消法』の詳細は以下で解説しています。
➡ 【障害者基本法】目的や障害者の定義は?概要をわかりやすく解説
➡ 【障害者差別解消法】合理的配慮の提供義務化?概要をわかりやすく解説
障害者雇用促進法の変遷
障害者雇用促進法は、1960年に「身体障害者雇用促進法」として制定されて以降、多くの変更を経て現在に至ります。主な変遷は以下の通りです。
おわりに
この記事では『障害者雇用促進法』について解説してきました。
障害者雇用促進法は、度々法改正が行われていますが、特に法定雇用率については今後も見直しが予定されています。
そのため、企業の人事労務担当者としては、同法の正しい理解や今後の動向にアンテナを高めておくことに加え、社内における障害者雇用を促進するためのハード面・ソフト面両者における環境整備への準備が重要となります。
【参考】
e-Gov 障害者の雇用の促進等に関する法律
厚生労働省 障害者雇用対策
厚生労働省 障害者雇用促進法の概要
厚生労働省 雇用分野における差別禁止・合理的配慮