こんにちは、IT企業で人事をしている労務女子なおです。
本記事では『労働関係調整法』に関して3分程度で概観できるよう解説します。
労働関係調整法とは
労働関係調整法とは、労使間の紛争が生じた際に、第三者である労働委員会による解決の手続きを定めた法律です。また、争議行為の制限についても定めています。
同法は「労調法」と略されることもあります。
労働関係調整法は、労働基準法、労働組合法と並び、労働者保護を目的とする基本法である「労働三法」の1つと呼ばれています。労働基準法が個別的労働関係法の1つであることに対して、労働関係調整法は、集団的労働関係法の1つとなります。
なお、労働関係調整法や労働組合法が、あくまで“労働組合”と企業との間における集団的労働紛争についての調整や救済を定めていることに対して、“個々の労働者”と企業との間における個別労働関係紛争については、個別労働紛争解決制度や労働審判制度が整備されています。
労働関係調整法は、1946年9月に制定され、同年10月に施行されました。なお、労働基準法の制定は1947年4月、労働組合法の制定は1945年12月であり、いずれも戦後間もない頃に制定された法律です。
同法の目的は、以下の第1条に規定されています。
各法律の第1条には、その法律の目的や趣旨が定義されており、当該法律の概要を理解することに役立ちます。
【労働関係調整法第1条】 条文抜粋
第一条 この法律は、労働組合法と相俟つて、労働関係の公正な調整を図り、労働争議を予防し、又は解決して、産業の平和を維持し、もつて経済の興隆に寄与することを目的とする。
なお、『労働組合法』、『個別労働紛争解決促進法』、『労働審判法』の詳細は以下で解説しています。
➡ 【労働組合法】不当労働行為、労働協約?概要をわかりやすく解説
➡ 【個別労働紛争解決促進法】あっせん?概要をわかりやすく解説
➡ 【労働審判法】期日や流れや費用は?概要をわかりやすく解説
争議行為
労働関係調整法においては、労使間における労働関係に関する主張が一致しないために、争議行為が発生している、もしくは、発生しそうな状態を、労働争議と定義しています(同法第6条)。
なお、厚生労働省が実施している労働争議統計調査において、労働争議は、①「争議行為を伴う争議」と②「争議行為を伴わない争議(争議行為を伴わないが解決のため労働委員会等第三者が関与したもの)とに分けています。
ここで記載のある争議行為については、労使いずれかがそれぞれの主張を貫徹するために行う以下の行為を指しています(同法第7条)。
- 怠業(サボタージュ):労働組合、または、労働者の団体が自己の主張を貫徹するために、作業を継続しながらも、作業を量的質的に低下させるもの。
- 同盟罷業(ストライキ):自己の主張を貫徹するために労働組合又は労働者の団体によってなされる一時的作業停止。作業停止時間によって「半日未満」「半日以上」に分けられます。
- 作業所閉鎖(ロックアウト):使用者側が争議手段として生産活動の停止を宣言し、作業を停止するもの。
- その他(業務管理等):上記以外の形態の争議行為を伴う争議。なお、業務管理とは、使用者の意志を排除して労働者によって事業所が占拠され、専ら労働者の方針によって生産や業務が遂行されるもの。
争議行為に関しては、その発生に伴う届出や事前予告の義務が規定されています。
具体的には、争議行為が発生した場合、その当事者は、直ちにその旨を労働委員会又は都道府県知事に届出を行う必要があります。ただし、この届出に関して、罰則規定はありません。
また、公益事業における争議行為を行う場合は、争議開始日の10日前(届出日と開始日は含まない)までに労働委員会及び厚生労働大臣、または、都道府県知事に通知を行う必要があります。通知を受けた厚生労働大臣、または、都道府県知事は、直ちに、公衆が知ることができる方法によってこれを公表しなければならないとされており、官報などによる公表を行っています。ここで言う公益事業とは、a)運輸事業、b)郵便・電気通信事、c)水道、電気、ガス供給事業、d)医療、公衆衛生の事業、のいずれかの事業であり、公衆の日常生活に欠くことのできないものを指します。
なお、これらの争議行為に伴う労務の提供がない時間については、ノーワーク・ノーペイの原則により賃金請求権は生じません。
労働争議の調整の種類
労使による労働争議については、その解決の手続きとして、労働委員会が両者の主張を調整し、を行う争議行為の回避、終結を図ります。なお、労働委員会とは、労働者の団結権の擁護、および、労働関係の公正な調整を図るため、労働組合法に基づき設置された独立行政委員会を指します。
具体的な調整手続きとして、斡旋、調停、仲裁の3つがあります。
斡旋(あっせん)
労働委員会会長から指名された斡旋員が、労使双方の主張の要点を確認し、労使の間に立ち労使の自主的な交渉を側面から援助して、労働争議・紛争を解決に導く手法です。簡便で最も利用されています。
なお、斡旋員は、あらかじめ作成された斡旋員候補者名簿から指名されますが、その候補者は、a)労働委員会の委員又は元委員、b)労働委員会の事務局職員、c)労使関係についての学識経験者等が名を連ねています。
調停
労働委員会会長から指名された公労使委員からなる三者構成の調停委員会が、労使双方の主張の要点を確かめ、公正適切な判断によって作成した「調停案」を関係当事者に提示し、その受諾を勧告して両当事者の妥協を図り、労働争議・紛争を解決に導く手法です。調停委員会が調停案を提示する点において、斡旋よりも積極的であり、提示された調停案が、後述の仲裁裁定のように両当事者を拘束しない(解決案の受諾を強制するものではない)点において、仲裁よりも弾力的な手法と言えます。
仲裁
労働委員会会長が指名した公益委員3名で構成する仲裁委員会が、労使双方の主張を踏まえて「仲裁裁定」を出し、労働争議・紛争を解決する手法です。仲裁裁定は、労働協約と同様の効力を持ち、労使当事者を拘束することとなります。その際、労使委員は仲裁委員会の同意を得て意見を述べることができます。
また、同法には、上記の調整手続きと異なり、内閣総理大臣による公益事業等の労働争議調整の枠組みも規定されています。
具体的には、①公益事業に関するもの、②規模が大きいもの、③特別の性質の事業に関するものであるために、争議行為により当該業務が停止されるときは国民経済の運行を著しく阻害し、または、国民の日常生活を著しく危くする虞(おそれ)があると認める事件について、その虞が現実に存するときに限り、内閣総理大臣は、中央労働委員会の意見を聞いて緊急調整の決定をすることができるとされています。緊急調整の決定がなされた際は、公表から50日間、争議行為は禁止とされます。
なお、この緊急調整の決定の実績は、1952年(昭和27年)石炭争議(緊急調整の決定後スト終結)に発動された1件のみとなります。
おわりに
この記事では『労働関係調整法』について解説してきました。
労働関係調整法は、労働基準法、労働組合法と並び、労働者保護を目的とする基本法である「労働三法」の1つであり、労働紛争の解決手続きや争議行為の制限について定めた法律です。
日本においては、企業別組合が一般的であり、昨今では協調的な労働組合など良好な労使関係を築いている企業も多くなっている状況のため、労働争議も減少傾向にありますが、企業の人事労務担当者としては、労使間の紛争が生じた場合の対応の基礎として労働関係調整法を正しく理解し、不測の事態等状況の変化に備えることが必要です。
【参考】
e-Gov 労働関係調整法
厚生労働省 労働組合
厚生労働省 労働委員会
厚生労働省 労働争議統計調査
厚生労働省 公益事業に関する争議行為の予告