【過労死ライン】労災認定基準とは?概要をわかりやすく解説

過労死ライン 勤務・働き方

こんにちは、IT企業で人事をしている労務女子なおです。
本記事では『過労死ライン』に関して、3分程度で概観できるよう解説します。

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過労死ラインとは

過労死ラインとは、健康障害や死亡に至るリスクが高まるとされる時間外労働時間の目安のことを言います。過労死等として労災認定される際の基準の1つとして用いられます。

具体的には、脳・心臓疾患の労災認定基準において、「発症前1カ月間に100時間」あるいは「発症前2~6カ月間平均で80時間」を超える時間外労働は、業務とその発症との関係性が強いとされています。

過労死等防止対策推進法第2条では、「過労死等」を以下のとおり定義しています。

  • 業務における過重な負荷による脳血管疾患・心臓疾患を原因とする死亡
  • 業務における強い心理的負荷による精神障害を原因とする自殺による死亡
  • 死亡には至らないが、これらの脳血管疾患・心臓疾患、精神障害

過労死については、「脳・心臓疾患」と、「精神疾患」の大きく2つに分類され、それぞれについて、労災認定基準が提示されています。
「過労死ライン」と表現される言葉は、「脳・心臓疾患」における時間外労働時間の目安を指すことが一般的ですが、時間外労働時間以外の負荷要因を含める場合や「精神疾患」の労災認定基準を含めた広義の意味で使われている場合もあるようです。

過労死ラインの基準

脳・心臓疾患の労災認定基準

「脳・心臓疾患の労災認定基準」は2001年12月に改正された通達をベースとされてきましたが、改正から約20年が経過し、最新の医学的知見を踏まえた見直しが行われ、2021年9月から新しい基準で運用がされています。

2021年の改定により、過労死ライン(=時間外労働時間の目安)はそのままとしつつも、労働時間以外の負荷要因を総合評価することが明確化されました。
また、労働時間以外の負荷要因の見直し、業務と発症との関連性が強いと判断できる場合を明確化、脳・心臓疾患の対象疾病に「重篤な心不全」が追加されました。

【認定基準】

対象疾病

脳血管疾患

  1. 脳内出血(脳出血)
  2. くも膜下出血
  3. 脳梗塞
  4. 高血圧性脳症

虚血性心疾患

  1. 心筋梗塞
  2. 狭心症
  3. 心停止(心臓性突然死を含む)
  4. 解離性大動脈瘤
  5. 重篤な心不全(不整脈によるものを含む)

認定要件
以下の3点により、業務の過重性を評価することになります。

① 長期間の過重業務
② 短期間の過重業務
③ 異常な出来事

①長期間の過重業務
「発症前の長期間にわたり、著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務に就いたこと」を認定要件の1つとしています。
具体的には、前述の過労死ラインと言われる「発症前1カ月間に100時間」あるいは「発症前2~6カ月間平均で80時間」に近い時間外労働を行った場合に、以下の労働時間以外の負荷要因を総合評価して判断されます。

【労働時間以外の負荷要因】

  • 勤務時間の不規則性(拘束時間の長い勤務、休日のない連続勤務、勤務間インターバルが短い勤務、不規則な勤務・交代制勤務・深夜勤務)
  • 事業場外における移動を伴う業務(出張の多い業務、その他事業場外における移動を伴う業務)
  • 心理的負荷を伴う業務
  • 身体的負荷を伴う業務
  • 作業環境(温度環境・騒音・時差)

②短期間の過重業務
「発症に近接した時期において、特に過重な業務に就労したこと」を認定要件の1つとしています。
特に過重な業務とは、日常業務(所定労働時間内の所定業務)に比較して特に過重な身体的、精神的負荷を生じさせたと客観的に認められる仕事をいいます。
具体的には、発症直前から前日までの間に特に過度の長時間労働が認められる場合や発症前おおむね1週間継続して、深夜時間帯に及ぶ時間外労働を行うなど過度の長時間労働が認められる場合が例示されています。
また、①長期間の過重業務の評価と同様「労働時間以外の負荷要因」も考慮されます。

③異常な出来事
「発症直前から前日までの間において、発生状態を時間的および場所的に明確にし得る異常な出来事に遭遇したこと」を認定要件の1つとしています。
異常な出来事とは、精神的負荷(極度の緊張、興奮、恐怖、驚がく等の強度の精神的負荷を引き起こす突発的または予測困難な異常な事態)、身体的負荷(緊急に強度の身体的負荷を強いられる突発的または予測困難な異常な事態)、作業環境の変化(急激で著しい作業環境の変化)が考えられます。
その他具体例として、業務に関連した重大な人身事故や重大事故に直接関与した場合、事故の発生に伴って著しい身体的、精神的負荷のかかる救助活動や事故処理に携わった場合、生命の危険を感じさせるような事故や対人トラブルを体験した場合、著しい身体的負荷を伴う消火作業、人力での除雪作業、身体訓練、走行等を行った場合、著しく暑熱な作業環境下で水分補給が阻害される状態や著しく寒冷な作業環境下での作業、温度差のある場所への頻回な出入りを行った場合が例示されています。

精神疾患の労災認定基準

「精神疾患の労災認定基準」は2011年12月の通達をベースとされてきましたが、2020年6月から施行のパワーハラスメント防止対策の法制化に伴い、職場における「パワーハラスメント」の定義が法律上規定されたことなどを踏まえ、認定基準の改正が行われ、2020年6月から新しい基準で運用がされています。

【認定基準】

対象となる精神障害
国際疫病分類第10回修正版(ICD-10)第Ⅴ章「精神および行動の障害」に分類される以下の精神障害であって、認知症や頭部外傷などによる障害およびアルコールや薬物による障害は除くとされています。

  • F0 :症状性を含む器質性精神障害
  • F1 :精神作用物質使用による精神および行動の障害
  • F2 :統合失調症、統合失調症型障害および妄想性障害
  • F3 :気分[感情]障害
  • F4 :神経症性障害、ストレス関連障害および身体表現性障害
  • F5 :生理的障害および身体的要因に関連した行動症候群
  • F6 :成人のパーソナリティおよび行動の障害
  • F7 :精神遅滞[知的障害]
  • F8 :心理的発達の障害
  • F9 :小児期および青年期に通常発症する行動および情緒の障害、特定不能の精神障害

認定要件
以下の3点により、業務の過重性を評価することになります。

① 認定基準の対象となる精神障害を発病していること
② 発病前おおむね6カ月の間に業務による強い心理的負荷が認められること
③ 業務以外の心理的負荷や個体側要因により発病したとは認められないこと

上記②の業務による強い心理的負荷が認められるかどうかについては、業務による出来事を厚生労働省が示す「業務による心理的負荷評価表」(以下、別表)にて、「強」、「中」、「弱」に分類し、「強」と評価される場合に、認定要件を満たすとされています。

上記の業務による出来事については、出来事と出来事後を一連のものとして総合評価します。

別表の「特別な出来事」に該当する場合、心理的負荷の総合評価は「強」となります。
「特別な出来事」に該当しない場合も、別表の「具体的出来事」のどれに当てはまるか、あるいは近いかを判断し、具体例の内容と照らしながら評価します。
複数の出来事が関連して生じた場合には、その全体を1つの出来事として評価し、関連しない出来事が複数生じた場合は、出来事の数、内容、時間的な近接の程度を考慮して全体を評価します。

過労死をめぐる国の動き

「過労死」という言葉は、1980年代頃から社会問題化する中で、1988年に有志の弁護士等による電話相談窓口「過労死110番」が開設されて以降、社会的用語として一般的に使用されるようになり、国際的にも「KAROSHI」として使用されるようになりました。

こうした過労死等の多発が大きな社会問題として継続する中、議員立法として「過労死等防止対策推進法」が成立し、2014年11月から施行されました。
同法の目的は、過労死等に関する調査研究等について定めることにより、過労死等の防止のための対策を推進し、もって過労死等がなく、仕事と生活を調和させ、健康で充実して働き続けることのできる社会の実現に寄与することとしています。
同法においては、過労死等の防止対策として、①過労死実態の調査研究、②相談体制の整備、③啓発活動、④民間団体の活動に対する支援、を規定しています。
これらに基づき、11月を「過労死等防止啓発月間」と定め、過労死等をなくすためにシンポジウムやキャンペーンなどの啓発活動を行っています。
また、国会に毎年報告を行う年次報告書である「過労死等防止対策白書」が取りまとめられています。

脳・心臓疾患の労災認定基準」については、前述の通り、2001年12月に改正された通達をベースとされてきましたが、改正から約20年が経過し、最新の医学的知見を踏まえた見直しが行われ、2021年9月から新しい基準で運用がされています。
最近では、過去の事案に対しても、この改定された新基準に基づいて労災認定を見直す事例が出始めています。
一方、過労死ライン(=時間外労働時間の目安)が維持となった本改定に対しては、世界保健機関(WHO)および国際労働機関(ILO)の共同調査の指摘を踏まえ、検討委員会の弁護士や過労死の遺族等からは、過労死ラインを65時間に見直すべきである等の提案がされています。

精神疾患の労災認定基準」については、前述の通り、2011年12月の通達をベースとされてきましたが、2020年6月から施行のパワーハラスメント防止対策の法制化(改正労働施策総合推進法)に伴い、職場における「パワーハラスメント」の定義が法律上規定されたことなどを踏まえ、認定基準の改正が行われ、2020年6月から新しい基準で運用がされています。
最近では、SOGIハラ(※)を原因とする精神疾患に関する労災が認定されるなど、各種ハラスメントを取り巻く状況も変化してきている。

※ SOGIは、Sexual Orientation and Gender Identityの略、性的指向・性自認を表す言葉であり、それに関する差別や嫌がらせを行うハラスメントのこと

なお、『労働施策総合推進法』の詳細は以下で解説しています。
 ➡ 【労働施策総合推進法】パワハラ防止法?概要をわかりやすく解説

おわりに

この記事では『過労死ライン』について解説してきました。
過労死を巡っては、継続的に大きな社会問題となっており、過労死等は、本人はもとより、その家族のみならず社会にとっても大きな損失となります。
企業の人事労務担当者としては、政府による「過労死等防止対策推進法」に基づく取り組みや、「脳・心臓疾患の労災認定基準」、「精神疾患の労災認定基準」など、それぞれの内容の理解はもとより、その趣旨に鑑みた、社内の勤怠労務管理が重要となります。

【参考】
e-Gov 過労死等防止対策推進法
厚生労働省 過労死等防止対策
厚生労働省 過労死等防止に関する特設サイト

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