こんにちは、IT企業で人事をしている労務女子なおです。
本記事では『賃金支払確保法』に関して3分程度で概観できるよう解説します。
賃金支払確保法
賃金支払確保法とは、企業が倒産等によって労働者への賃金・退職金・社内預金の支払を確保するため、それらの保全のための措置を定めた法律です。
具体的には、事業主が委託を受けて労働者の貯蓄金を管理する場合の保全措置を講じること、また、退職手当の規定がある場合の退職手当の支払いの確保をしなければならないことを定めています。その他、退職労働者の賃金に係る遅延利息に関する事項や、企業の倒産により事業主に上記の支払い能力がない場合は、一定要件のもとに政府が弁済する立替払制度もあります。
同法は、1976年に成立・施行され、正式名称は、「賃金支払いの確保等に関する法律」といい、略称として「賃確法」と呼ばれることもあります。
なお、『賃金』の詳細は以下で解説しています。
➡ 【賃金】賃金支払いの5原則?概要をわかりやすく解説
同法の目的は、以下の第1条に規定されています。
各法律の第1条には、その法律の目的や趣旨が定義されており、当該法律の概要を理解することに役立ちます。
【賃金支払確保法第1条】 条文抜粋
(目的)
第一条 この法律は、景気の変動、産業構造の変化その他の事情により企業経営が安定を欠くに至つた場合及び労働者が事業を退職する場合における賃金の支払等の適正化を図るため、貯蓄金の保全措置及び事業活動に著しい支障を生じたことにより賃金の支払を受けることが困難となつた労働者に対する保護措置その他賃金の支払の確保に関する措置を講じ、もつて労働者の生活の安定に資することを目的とする。
なお、同法第2条にてそれぞれ以下の言葉の定義を規定しています。
- 「賃金」:労働基準法第11条に規定する賃金
- 「労働者」:労働基準法第9条に規定する労働者(同居の親族のみを使用する事業又は事務所に使用される者及び家事使用人を除く)
貯蓄金の保全措置
事業主は、労働者の貯蓄金をその委託を受けて管理する場合において、貯蓄金の管理が労働者の預金の受入れであるときは、厚生労働省令で定める場合を除き、毎年3月31日における受入預金額について、同日後1年間を通ずる貯蓄金の保全措置を講じなければなりません。
事業主が上記の貯蓄金の保全措置を講じていない場合、労働基準監督署は、期限を指定してその是正を命ずることができます。
退職手当の保全措置
事業主は、労働契約、労働協約、就業規則その他これらに準ずるものにおいて労働者に退職手当を支払うことを明らかにしたときは、当該退職手当の支払に充てるべき額として厚生労働省令で定める額について、退職手当の保全措置を講ずるように努めなければなりません。
退職労働者の賃金に係る遅延利息
事業主は、その事業を退職した労働者に係る賃金(退職手当を除く)の全部または一部をその退職の日(退職の日後に支払期日が到来する賃金にあっては、当該支払期日)までに支払わなかった場合には、当該労働者に対し、当該退職の日の翌日からその支払をする日までの期間について、その日数に応じ、当該退職の日の経過後まだ支払われていない賃金の額に年14・6%の率を乗じて得た金額を遅延利息として支払わなければなりません。
未払賃金の立替払事業
同法7条において、政府は、労働者災害補償保険の適用事業に該当する事業が破産手続開始の決定を受け、その他政令で定める事由に該当することとなった場合において、当該事業に従事する労働者で政令で定める期間内に当該事業を退職したものに係る未払賃金があるときは、当該労働者の請求に基づき、当該未払賃金に係る債務のうち政令で定める範囲内のものを当該事業主に代わって弁済するものと規定されています。
なお、未払賃金の立替払の請求ができる者は、破産手続開始の申立日または認定の申請の日の6カ月前の日から2年間の期間内に退職した者となります。
また、立替払の額は、未払賃金総額の80%相当額ですが、基準退職日の年齢に応じて以下の上限額が設けられています。また、未払賃金総額が2万円未満の場合は、立替払は行われません。
- 30歳未満: 110万円の80%(=88万円)
- 30歳以上45歳未満: 220万円の80%(=176万円)
- 45歳以上: 370万円の80%(=296万円)
罰則
労働者が、同法に違反する事業主について労働基準監督署等に申告したことを理由として、解雇その他不利益な取扱いをしたときは、6カ月以下の懲役または10万円以下の罰金が科されます。また、貯蓄金の保全措置に係る命令に違反したときは、30万円以下の罰金が科されます。
その他にも虚偽の報告等に対する罰金刑等が規定されています。
おわりに
この記事では、『賃金支払確保法』について解説してきました。
賃金支払確保法は、企業が倒産等によって労働者への賃金・退職金・社内預金の支払を確保するため、それらの保全のための措置を定めた法律となり、企業の人事労務担当者としては、同法を認識の上、適切な措置を講じておく必要があります。
【参考】
e-Gov 賃金の支払の確保等に関する法律