こんにちは、IT企業で人事をしている労務女子なおです。
本記事では『障害者差別解消法』に関して3分程度で概観できるよう解説します。
障害者差別解消法
障害者差別解消法とは、障害を理由とする差別の解消を推進することを目的とした法律です。
同法は、障害者基本法の基本的な理念を具体化し、行政機関等と事業者における措置等を定めています。正式名称を「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」といいます。
同法の成立の経緯は、2006年に国連の「障害者の権利に関する条約」の採択に遡ります。日本は同条約に2007年に署名し、その締結に向けた国内の法整備の一環として、2011年に障害者基本法が改正され、同法第4条に差別禁止の基本原則が規定されました。
その基本原則を具体化するものとして2013年に障害者差別解消法が成立し、2015年4月に施行されました。
その後、2021年に障害者差別解消法が改正され、事業者による障害のある人への合理的配慮の提供が義務化されることとなり、2024年4月から施行されます。
同法の目的は、以下の条文の通り、第1条に規定されています。
各法律の第1条には、その法律の目的や趣旨が定義されており、当該法律の概要を理解することに役立ちます。
【障害者差別解消法第1条】 条文抜粋
(目的)
第一条 この法律は、障害者基本法(昭和四十五年法律第八十四号)の基本的な理念にのっとり、全ての障害者が、障害者でない者と等しく、基本的人権を享有する個人としてその尊厳が重んぜられ、その尊厳にふさわしい生活を保障される権利を有することを踏まえ、障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本的な事項、行政機関等及び事業者における障害を理由とする差別を解消するための措置等を定めることにより、障害を理由とする差別の解消を推進し、もって全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に資することを目的とする。
同法では、障害者の定義を、身体障害、知的障害又は精神障害があるため、継続的に日常生活、または、社会生活に相当な制限を受ける者としています。
この定義は、障害者基本法と同じです。
同法における差別を解消するための措置は、主に以下の2つが定められています。それぞれの詳細は後述します。
- 不当な差別的取扱いの禁止
- 合理的配慮の提供
なお、『障害者基本法』、『障害者雇用促進法』の詳細は以下で解説しています。
➡ 【障害者基本法】目的や障害者の定義は?概要をわかりやすく解説
➡ 【障害者雇用促進法】雇用義務、法定雇用率とは?概要をわかりやすく解説
事業主の対応
同法は、行政機関等と事業者における措置等を定めており、事業者とは、事業を行う者を広く対象としており、企業である事業主も対象となります。
事業主として必要な対応事項として、具体的な条文は第8条に記載されている以下の通りです。
【障害者差別解消法第8条】 条文抜粋
(事業者における障害を理由とする差別の禁止)
第八条 事業者は、その事業を行うに当たり、障害を理由として障害者でない者と不当な差別的取扱いをすることにより、障害者の権利利益を侵害してはならない。
2 事業者は、その事業を行うに当たり、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、当該障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をするように努めなければならない。
不当な差別的取扱いの禁止
同法は、障害があることを理由として、正当な理由なく、サービスの提供を拒否したり、制限したり、条件を付けたりするような行為等、障害のある人の権利利益を侵害することを禁止しています。
内閣府のリーフレット上では、以下のような具体例を示しています。
- 受付けの対応を拒否する
- 本人を無視して介助者や支援者、付き添いの人だけに話しかける
- 学校の受験や、入学を拒否する
- 障害者向け物件は無いと言って対応しない
- 保護者や介助者が一緒にいないとお店に入れない
合理的配慮の提供
障害のある人から、何らかの対応や配慮を求める意思の表明があった場合に、過度な負担にならない範囲で、社会的障壁を取り除くための必要で合理的な対応を行うことを求めています。
当初の障害者差別解消法における合理的配慮の提供については、行政機関は義務、事業者は努力義務とされていましたが、2021年の法改正により、事業者についても義務となりました。
合理的配慮の提供に当たっては、障害のある人と事業者等との間の「建設的対話」を通じて相互理解を深め、共に対応案を検討していくことが重要とされています。
そして、「合理的配慮」は、事務・事業の目的・内容・機能に照らし、以下の3つを満たすものであることに留意する必要があります。
① 必要とされる範囲で本来の業務に付随するものに限られること
② 障害者でない者との比較において同等の機会の提供を受けるためのものであること
③ 事務・事業の目的・内容・機能の本質的な変更には及ばないこと
内閣府のリーフレット上では、以下のような具体例を示しています。
- 障害のある人の障害特性に応じて、座席を決める
- 障害のある人から、「自分で書き込むのが難しいので代わりに書いてほしい」と伝えられたとき、代わりに書くことに問題がない書類の場合は、その人の意思を十分に確認しながら代わりに書く
- 意思を伝え合うために絵や写真のカードやタブレット端末などを使う
- 段差がある場合に、スロープなどを使って補助する
なお、合理的配慮の提供については、障害者差別解消法だけではなく、障害者雇用促進法においても事業者の義務が規定されています。
いずれも障害者に対する合理的配慮の提供を義務付けるものではありますが、障害者差別解消法が共生社会を実現することを目指した法律であり、一方、障害者雇用促進法が障害者の雇用の安定を図ることを目的とした法律という点で異なることからも、厳密には、異なる部分があります。
例えば、合理的配慮の提供が義務付けられている対象範囲は、障害者差別解消法の方が広く、企業のような事業主だけではなく、個人事業主やボランティア活動をするグループ等も含まれます。
また、合理的配慮の提供の内容についても、障害者差別解消法が社会生活における措置である一方で、障害者雇用促進法においては、障害者と障害のない者との均等な機会もしくは待遇の確保、障害者である労働者の能力発揮の支障を取り除く措置となり、雇用に関する分野の内容となります。
おわりに
この記事では『障害者差別解消法』について解説してきました。
障害者差別解消法は、障害者基本法の基本的な理念を具体化し、行政機関等と事業者における措置等を定めており、多様な顧客に製品・サービスを提供する立場、また、多様な従業員を雇用する企業の人事労務担当者としては、その他の障害者に関連する法律と合わせて、同法を正しく理解し、適切に対応することが重要となります。
【参考】
e-Gov 障害者差別解消法
内閣府 障害者施策
内閣府 障害者の差別解消に向けた理解促進ポータルサイト