こんにちは、IT企業で人事をしている労務女子なおです。
本記事では『労働契約法』に関して3分程度で概観できるよう解説します。
労働契約法とは
労働契約法とは、労働契約に関する基本的な理念、原則、判例法理に沿った内容の民事的なルールを体系的に定めた法律です。「労契法」と略されることもあります。
就業形態が多様化すると同時に、個別の労働条件が決定・変更される機会が増えることに伴い、個別の労働紛争が増えている背景を踏まえ、個別的労働関係の安定を図るため、2008年3月に施行されました。その後、2012年8月には、有期労働契約に関する規定が追加となる改正が行われ、2020年4月には、働き方改革関連法に伴い、従来の労働契約法第20条に規定されていた均衡待遇規定がパートタイム・有期雇用労働法第8条に移管される改正が行われました。
同法の構成は、以下の通りとなっています。
第1章 「総則(第1条~第5条)」
第2章 「労働契約の成立及び変更(第6条~第13条)」
第3章 「労働契約の継続及び終了(第14条~第16条)」
第4章 「期間の定めのある労働契約(第17条~第19条)」
第5章 「雑則(第20条~第21条)」
上記には、就業規則の不利益変更に関する事項(第8条~第9条)、解雇権濫用法理(第16条)、無期転換ルール(第18条)、雇止め法理(第19条)など、労働契約に関して注目されることの多い内容が含まれています。企業の人事労務担当者として実務を行う立場としては、一通り目を通しておくと良いと思います。
なお、同法自体には罰則規定はありませんが、関連する労働基準法違反や、係争化した際の民事上の損害賠償の責任が生じるリスクがある点は注意が必要です。
同法の目的は、以下の第1条に規定されています。
各法律の第1条には、その法律の目的が定義されており、当該法律の趣旨を理解することに役立ちます。
【労働契約法第1条】 条文抜粋
(目的)
第一条 この法律は、労働者及び使用者の自主的な交渉の下で、労働契約が合意により成立し、又は変更されるという合意の原則その他労働契約に関する基本的事項を定めることにより、合理的な労働条件の決定又は変更が円滑に行われるようにすることを通じて、労働者の保護を図りつつ、個別の労働関係の安定に資することを目的とする。
労働契約の基本ルール
同法における「労働者」については、「使用者に使用されて労働し、賃金を支払われる者」と定義しており、基本的に労働基準法と同様となっています。
この労働者については、形式上「請負」等の形態であった場合も、実態として、上記定義に該当する場合は「労働者」とみなされます。
労働契約法は第3条にて、労働契約の原則として以下の5つを定めています。
- 労使対等の原則
- 均衡考慮の原則
- 仕事と生活の調査への配慮の原則
- 労働契約遵守・信義誠実の原則
- 権利濫用禁止の原則
その他、労働者に対して労働条件を適切に説明することや契約内容を書面で確認することを促す規定や、労働者への安全配慮の規定があります。
労働契約の成立・変更・終了
労働契約法は、労働契約の成立・変更・終了について、それぞれ第2章(第6条~第13条)、第3章(第14条~第16条)にて定めています。
労働契約の成立
労働契約は、労働者と使用者が合意することで成立します。
事業場に就業規則がある場合、①合理的な内容であり、②労働者に周知されていた場合には、就業規則で定める労働条件が労働契約の内容となります。
実際には、多くの従業員を雇用する企業としては、従業員一人一人個別に労働契約を締結することは現実的ではないため、多くの会社が就業規則を定めており、同法の規定に則った対応をとっていることとなります。
就業規則とは異なる個別の労働契約に合意していた場合は、個別の労働契約の内容が優先されることとなります。
ただし、その内容が就業規則よりも下回っている場合は、就業規則の内容まで引き上がります。また、法令や労働協約に反する就業規則の内容は適用されません。
個別に合意した労働契約だからといって、労働基準法を下回る内容は勿論、就業規則を下回る内容を適用することはできないことは注意が必要です。
労働契約の変更
労働契約は、労働者と使用者が合意することで変更が可能です。
事業場に就業規則がある場合、使用者が一方的に労働者の不利益になる内容へ変更することはできず、以下の①②の要件を満たすことが必要になります。
① 就業規則の変更が以下の事情等に照らして合理的なものであること
- 労働者の受ける不利益の程度
- 労働条件の変更の必要性
- 変更後の就業規則の内容の相当性
- 労働組合等との交渉の状況
- その他の就業規則の変更に係る事情
② 変更後の就業規則を労働者に周知したこと
就業規則の変更に関する判例としては、以下が有名で、労働契約法はこれらの判例法理に沿った内容となっています。
- 秋北バス事件(最高裁 昭和43年12月25日)
- 大曲市農業協同組合事件(最高裁 昭和58年11月25日判決)
- 第四銀行事件(最高裁 平成9年2月28日判決)
- みちのく銀行事件(最高裁 平成12年9月7日判決)
また、労働契約法では、出向、懲戒について、労働者に与える影響が大きいことから、それぞれの内容について規定しています。
出向については、当該出向命令が、その必要性、対象労働者の選定が適切であるか等の事情を総合的に考慮し、その権利を濫用したと認められる場合には、その出向命令は無効となります。
懲戒については、当該懲戒が、その懲戒の原因となる労働者の行為の性質や態様等の事情を総合的に考慮し、その権利を濫用したと認められる場合には、その懲戒は無効となります。
労働契約の終了
労働契約法では、解雇については、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」と定めています。
解雇は、使用者が自由に行えるものではなく、当該解雇が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合は、労働者をやめさせることはできないとされています。
実務上も、勤務怠慢や業務命令違反などの行為をする従業員の対応に困るケースは多くの人事労務担当者が経験したことがあるかもしれませんが、それら1回の行為をもって解雇ということはできず、仮に解雇しようとする場合は、その従業員の過失の程度、行為の内容、会社が被った損害の重大性、悪意や故意の有無、やむを得ない事情の有無など、様々な事情が考慮されることとなりますので、大変慎重な対応・判断が求められます。
また、労働契約法以外に、「労働基準法」、「労働組合法」、「男女雇用機会均等法」、「育児・介護休業法」などの法律により、解雇が禁止されているケースがあります。
例えば、業務上災害のため療養中の期間や産前産後の期間とその後の30日間、労働組合の組合員であることを理由とするもの、出産に伴う休業や育児・介護休業を理由とするものなどです。
有期労働契約
労働契約法は、期間の定めのある労働契約(以下、有期労働契約)について、第4章(第17条~第19条)にて定めています。
有期労働契約に関する規定については、2012年8月の法改正で追加となりました。なお、当時の法改正時には「不合理な労働条件の禁止(旧労働契約法第20条)」についても規定されていましたが、2020年4月よりパートタイム・有期雇用労働法8条に移管されました。
雇止め法理
有期労働契約については、労働契約法第17条にて、使用者はやむを得ない事由がある場合でなければ、契約期間の途中で労働者を解雇することはできないこととされています。加えて、期間の定めのない労働契約の場合よりも、解雇の有効性は厳格に判断されることとなります。
また、厚生労働省告示にて、有期労働契約が3回以上更新されている場合や1年を超えて継続勤務している労働者については、契約を更新しない場合に、使用者は30日前までの予告が必要とされています。
更に、契約期間が満了し、契約を更新しないこと(以下、雇止め)については、①反復した更新の実態等から、実質的に期間の定めのない労働契約(無期労働契約)と変わらないといえる場合や、②雇用の継続を期待することが合理的であると考えられる場合に、客観的・合理的な理由がなく、社会通念上相当であると認められないときには、当該雇止めは認められず、従前と同一の労働条件にて有期労働契約が更新されることとされています。上記内容が、いわゆる「雇止め法理」となります。
無期労働契約への転換
有期労働契約については、労働契約法第18条にて、有期労働契約が反復更新されて通算5年を超えたときは、労働者の申込みにより、期間の定めのない労働契約(無期労働契約)に転換できることを定めています。通称「無期転換ルール」と呼ばれています。
なお、無期転換の申込みについては、2013年4月1日以後に開始した有期労働契約の通算契約期間が5年を超える場合、その契約期間の初日から末日まで(6年目)の間に、申込みが可能となります。労働者が、無期転換の申込みをすると、使用者が申込みを承諾したものとみなされ、無期労働契約がその時点で成立します。無期労働契約に転換されるのは、申込み時の有期労働契約が終了する翌日からとなります。
成立した無期労働契約の労働条件(職務、勤務地、賃金、労働時間など)については、別段の定めがない限り、直前の有期労働契約と同一となりますが、別段の定めをすることにより、変更が可能です。
また、無期転換ルールにおける5年間の考え方については、有期労働契約とその次の有期労働契約の間に、契約がない期間が6か月以上あるときには、その空白期間より前の有期労働契約は通算契約期間に含めないこととなります。これをクーリングといいます。
おわりに
この記事では『労働契約法』について解説してきました。
労働契約法は、労働契約に関する事項が定められた法律となり、多様な従業員を雇用する上で基本的かつ重要な内容が記載されています。
企業の置かれた事業環境の変化に留まらず、多様な働き方がますます増えていく昨今においては、多様な雇用形態への対応や労働条件の変更は、企業の人事労務担当者としては常に検討し得るものであり、その際には同法を正しく理解し、適切な対応をとることが必要となります。
【参考】
e-Gov 労働契約法
厚生労働省 労働契約(契約の締結、労働条件の変更、解雇等)に関する法令・ルール
厚生労働省 労働契約法について
厚生労働省 労働契約の終了に関するルール