こんにちは、IT企業で人事をしている労務女子なおです。
本記事では『男女雇用機会均等法』に関して3分程度で概観できるよう解説します。
男女雇用機会均等法とは
男女雇用機会均等法とは、男女の雇用の均等、待遇の確保等を目標として定めた法律です。
主に、企業に対して、採用や配置、昇進、退職、解雇、福利厚生などについて、性別を理由に異なる取り扱いをすることを禁止した法律です。
正式名称を「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律」といい、通称「男女雇用機会均等法」や「均等法」と呼ばれています。
同法は、1972年に制定された「勤労婦人福祉法」を前身としており、女性の社会進出、女性労働者の増加や、1979年に国連総会で採択された「女子差別撤廃条約」を日本においても批准することを背景に、1985年に「勤労婦人福祉法」を大きく改正し、成立しました。
その後も、同法は複数の改正を繰り返し、現在の内容に至っています。
同法の目的は、以下の条文の通り、第1条に規定されています。
各法律の第1条には、その法律の目的や趣旨が定義されており、当該法律の概要を理解することに役立ちます。
【男女雇用機会均等法第1条】 条文抜粋
(目的)
第一条 この法律は、法の下の平等を保障する日本国憲法の理念にのっとり雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保を図るとともに、女性労働者の就業に関して妊娠中及び出産後の健康の確保を図る等の措置を推進することを目的とする。
事業主の対応
同法に定められている事業主の対応に関して、企業の人事労務担当者として、適切に理解・対応を準備しておく必要のある内容について説明します。
なお、男女雇用機会均等法に違反した場合、使用者は罰則を科される可能性があります。 具体的には、違反の疑いがある場合、厚生労働大臣または都道府県労働局長から報告を求められ、それに基づき、助言や指導、勧告が行われます。これに対して、報告に応じないかったり、虚偽の報告をしたりした場合には、20万円以下の過料が課され、勧告に従わなかった場合は企業名を公表されることなります。
- 性別を理由とする差別の禁止
- 間接差別の禁止
- ポジティブ・アクション
- 婚姻、妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いの禁止等
- 職場におけるセクシュアルハラスメント対策
- 職場における妊娠・出産等に関するハラスメント対策
- 母性健康管理措置
- 深夜業に従事する女性労働者に対する措置
- 派遣先に対する男女雇用機会均等法の適用
それそれの詳細は以下の通りです。
性別を理由とする差別の禁止
同法第5条・第6条にて、男女双方に対する差別的取扱いを禁止しています。
具体的には、募集・採用、配置(業務の配分及び権限の付与を含む)・昇進・降格・教育訓練、福利厚生、職種の変更・雇用形態の変更、退職の勧奨・定年解雇・労働契約の更新についての差別的取り扱いを禁止しています。
間接差別の禁止
同法第7条にて、労働者の性別以外の事由を要件とするもののうち、実質的に性別を理由とする差別となるおそれがあるものとして、省令で定める次の3つの措置について、合理的な理由がない場合、間接差別として禁止しています。なお、以下の3つ以外にも、司法判断として間接差別法理により違法とされる場合があります。
- 募集・採用にあたって慎重・体重・体力を要件とすること
- 全ての労働者の募集・採用、昇進、職種の変更にあたって転居転勤を要件とすること
- 昇進にあたって転勤経験を要件とすること
ポジティブ・アクション
同法第8条にて、女性労働者に係る措置に関する特例が定められています。 具体的には、性別による差別的取扱いを原則として禁止する一方、雇用の場で男女労働者間に 事実上生じている格差を解消することを目的として行う、女性のみを対象とした取扱いや女性を優遇する取扱いは違法でない旨を規定しています。
婚姻、妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いの禁止等
同法第9条にて、婚姻、妊娠・出産等に関する以下のことを禁止しています。
- 結婚・妊娠・出産を退職理由とする定め
- 結婚を理由とする解雇
- 妊娠・出産・産休取得その他省令で定める理由(母性健康管理措置・母性保護措置・妊娠又は出産に起因する能率低下等)を理由とする解雇その他不利益取扱い
- 妊娠中・産後1年以内の解雇(事業主が妊娠・出産等が理由でないことを証明しない限り無効となります)
職場におけるセクシュアルハラスメント対策
同法第11条にて、職場におけるセクシュアルハラスメント防止のために、雇用管理上必要な措置を講ずることが義務付けられています。
職場における妊娠・出産等に関するハラスメント対策
同法第11条の2にて、職場における妊娠・出産等に関するハラスメントを防止するために雇用管理上必要な措置を講ずることが義務付けられています。
母性健康管理措置
同法第12条・第13条にて、妊娠中及び出産後の女性労働者の健康管理に関する措置を講ずることが義務付けられています。
深夜業に従事する女性労働者に対する措置
同法施行規則第13条にて、事業主は、女性労働者の職業生活の充実を図るため、当分の間、女性労働者を深夜業に従事させる場合には、通勤及び業務の遂行の際における当該女性労働者の安全の確保に必要な措置を講ずるよう努めるものとするとあります。
派遣先に対する男女雇用機会均等法の適用
同法ではありませんが、労働者派遣法第47条の2にて、妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いの禁止、セクシュアルハラスメント対策、妊娠・出産等に関するハラスメント対策、母性健康管理措置についての規定は、派遣先事業主にも適用されることとしています。
なお、男女雇用機会均等法第15条にて、企業内における苦情の自主的解決についても定められており、従業員から苦情の申し出があった場合、社内の苦情処理機関の設置・活用など、自主的な解決を図るように努めなければならないとされています。
その他、労働者と事業主との間の紛争解決のために、以下2つの援助制度があります(同法第17条、第18条)。
- 労働局長による援助:労働局長が問題解決に必要な助言などの援助を行います
- 機会均等調停会議による調停:調停委員(労働問題の専門家)が調停案を作成し、当事者双方にお勧めします
法改正の変遷
男女雇用機会均等法は、1972年に制定された「勤労婦人福祉法」を大幅に改正して、1985年に成立しましたが、その後も、同法は以下の通り、複数回の改正を経て、現在の内容に至っています。
まず、1997年に改正が行われます(1999年4月施行)。
各種の差別禁止項目について、従来努力義務でしたが、同年の改正により禁止規定となりました。その他、事業主に対するセクシャルハラスメント防止措置の配慮義務や、事業主が行うポジティブ・アクションに対する国の支援、母性健康管理措置の義務化について、定められました。
セクシャルハラスメント防止措置の規定については、1992年に日本初のセクハラ裁判の判決に伴い、社会的な関心が高まったことも背景となっています。
なお、同時期に、労働基準法の一部も改正され、女性の時間外・休日労働・深夜業の規制といった、いわゆる女子保護規定が解消され、また、多児妊娠における産前休業期間の延長などの変更が行われました。
続いて、2006年に改正が行われます(2007年4月施行)。
男女双方に対して、性別を理由とする差別的取扱いが禁止され、男性への差別も禁止され、セクシャルハラスメントについては、男女双方を対象に防止措置が義務化されました。
加えて、差別的取扱いの禁止対象に、降格、職種の変更、雇用形態の変更、退職勧奨、労働契約の更新が追加され、差別規定が強化されました。
また、実質的に性別を理由とした差別につながる間接差別についての規定や、妊娠・出産等を理由とした不利益取扱いの禁止も追加されました。
なお、同時期に、労働基準法の一部も改正され、女性の坑内労働規制の緩和などの変更が行われました。
2016年(2017年1月施行)には、妊娠・出産等に関するマタニティハラスメント防止措置が義務化されました。
なお、同時期には、「女性活躍推進法」が成立しています。
2019年(2020年6月施行)には、職場におけるセクシュアルハラスメント、および、妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント防止対策が強化されました。 なお、同時期に、「労働施策総合推進法」が改正され、職場におけるパワーハラスメント防止措置も義務付けられました。
なお、『女性活躍推進法』、『労働施策総合推進法』の詳細は以下で解説しています。
➡ 【女性活躍推進法】えるぼし認定や情報公表とは?概要をわかりやすく解説
➡ 【労働施策総合推進法】パワハラ防止法?概要をわかりやすく解説
おわりに
この記事では『男女雇用機会均等法』について解説してきました。
男女雇用機会均等法は、男女の雇用の均等、待遇の確保等を目標として定めた法律です。企業に対して、採用や配置、昇進、退職、解雇、福利厚生などについて、性別を理由に異なる取り扱いをすることを禁止した法律ですが、事業主の対応としては、多くの対応事項があります。多様な従業員、多様なライフステージを経験する従業員を雇用する企業の人事労務担当者としても、同法を正しく理解し、適切に対応することが重要となります。
【参考】
e-Gov 雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律
厚生労働省 雇用における男女の均等な機会と待遇の確保のために
厚生労働省 男女雇用機会均等法関係資料